貴方は人を愛せなくなっていたはずですよね?

柚木ゆず

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第7話 不思議 マエリス視点(2)

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「……お父様。ランヴァードさんは、貴族ではありませんよね?」
「うむ。貴族ではないよ」

 お父様が10代の頃に偶然ランヴァードさんの個展を見掛け、作品に感銘を受けた。そちらが親しくなった切っ掛けで、平民生まれの平民育ちだと仰っていました。
 やはり、その記憶に間違いはありませんよね。

「?? どうかしたのか……?」
「はい。こちらは、貴族でないとオーダーできないのですよ」

 このペンダントは『貴族のみ』かつ『完全オーダーメード』で商売をなさっているお店が制作されていて、平民は注文も購入もできないんです。ランヴァードさんは、どうやって注文してくださったのでしょう?

「しかも、僅か2日間で完成しています。よほどの権力者でないと、出来ませんよね……?」

 ランヴァードさんはその……あまり知名度のないマイナーな画家さんですし、貴族界との繋がりもないと聞いています。オーダーできる手段が、ありません、よね……?

「ふしぎ、ですね……?」
「あ、あれじゃないかなっ?」

 眉根を寄せていると、お父様がパンと手を叩きました。

「私のように感銘を受けた貴族がいてだな、最近繋がりが出来てその人物にオーダーを頼んだんじゃないかな? そうに違いない! というか、それしかないだろう!」
「…………そう、ですね。それしか、ありえませんよね」

 でも、だとしたら……。
 評価されるのは非常におめでたい出来事で、親友であるお父様にお会いした際に大なり小なりお話ししているのではないでしょうか……?

「……………………」
「そっ、そんなことよりマエリス! 不思議と言えばだ、あれはなんなんだろうなっ?」

 パチン! もう一度、大きく手が叩かれました。

「あれ……? なんでしょう……?」
「あの手紙と従者アルスの件だよ。なにがあったのだろうな……?」

 わたしに浮気を知らせ、目撃までのルートを案内する。幼い頃からジョルロアさんに忠誠を誓っている方が、協力していた。
 非常に、不可思議な出来事でした。

「先日あの場で干渉がなかったということは、お前の読み通りお前の味方ではないということだ。……リストランテに侵入する、の以降はなにも記されていなかったのだろう?」
「はい、そうなんです」

 ナプキンなどを持ち帰れば、浮気の証拠になるはずでございます――。そちらで、指示は終わっていました。
 お家を追跡したのもあのタイミングで浮気を追加したのも、わたしの意思です。

「アルスの単独行動なのか、アルスを操っている者がいるのか。相手も狙いも、分からんな」
「ええ。もしかすると、わたしが居ない間に――いけない! 忘れていました!」

 早くゼリーを作らないと、ライズが起きてしまいます。

「す、すまない用事があったのだな? で、では私も失礼するとしよう! ではなマエリス!」
「え? は、はい」

 安堵している? ように見えるお父様に会釈を行い、厨房に入ります。
 そうしてわたしは、あの子に喜んでもらえるように調理を始め――


 〇〇〇


 同時刻。ハーライト子爵邸では――
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