貴方は人を愛せなくなっていたはずですよね?

柚木ゆず

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第8話 不思議その2 俯瞰視点(1)

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「…………夢のようだな」

 ハーライト子爵邸内にある、ジョルロアの私室。その中のベッドの上では、大の字になったジョルロアが感嘆の息を吐いていました。

『父上母上、紹介します。彼女がファニーです』
『おお、彼女が! 良い目をしているな』
『まあまあ。可愛らしい』

『そして。この子が、レオンです』
『この目、ジョルロアそっくりじゃないか』
『ライズよりも、ジョルロアに似ているわね。しかも、ふふ、愛想もいい。とても可愛らしいわ』

『ファニーくん、私は君を気に入ったよ。今後も会いたいと思っているし、できる限りの支援をしたいと思っている』
『表立って存在を認めることはできないけれど、わたくしの中では貴女が娘でレオンが孫よ。また会いに来て頂戴ね』

 自慢の『妻』と『子』を紹介したら、非常に良い反応をもらえた。2日間の滞在中に両親はマエリスとライズ以上にファニーとレオンを気に入り、そんな台詞まで飛び出した。
 間違いなく最高の状況となっており、ジョルロアは改めて感動を噛み締めていたのでした。

「この屋敷の中では堂々と二人に言及してよくなったし、堂々と会いに行けるようになった。最高、だ……!」

 ファニーの方が、もっと――。レオンの方が、もっと――。
 両親がマエリスやライズを褒めるたび、心の中ではそのように思っていました。

 もっと一緒に居たいのに――。
 いつも怪しまれないように帰る必要があったため、毎回我慢をして別れていました。制限時間があるため、できることに限りがありました。

 それらの不満が解消され、自由となった。
 ジョルロアの口から改めて感嘆のため息が漏れ、くくくと喉が鳴りました。

「ファニーとの関係がマエリスにバレた時はもう駄目かと思ったが、まさかソレがこんな風になってくれるだなんてな。むしろ、マエリスに感謝しないといけないな――いや、うわごとで『ファニー』とこぼした自分に拍手だな」

 あれがなかければ、なにも始まらなかった。全ての切っ掛けを生み出した自分自身に、大きな拍手を送り――

「……ん……?」

 ――12回拍手が聞こえた頃、不意にその音が止まりました。

「………………待てよ。おかしい――いいや、おかしくはない、か? …………いやいや、やっぱりそうだ。おかしい」

 ぴたりと拍手が止まり、更には段々と顔から笑顔が消えてゆく。そのような変化を彼にもたらした理由、それはこういったものでした。


「マエリスはどうやって、あのナフキンを手に入れたんだ……?」


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