貴方は人を愛せなくなっていたはずですよね?

柚木ゆず

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エピローグ~5年後の未来~その2 俯瞰視点

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「……頼む、お願いだ……! 時間よ巻き戻れ……!! 戻ってくれ……!!」

 バーゼルットと呼ばれる街の隅にある、住居を持たない者が集まる場所。そこの一角では、汚らしいボロボロの服を纏った男が天に祈りを捧げていました。
 彼の名前は、ジョルロア。かつてはハーライト子爵家の貴族で、嫡男であり副会頭を務めていた男です。

『聞こえなかったんですか? 早く消えろ。邪魔。目障り。これ以上しつこくするなら、通報するわよ?』
『………………くそが!! 死ね!! 死ね!! 地獄に落ちろ!!』

 叔父によって追放され、愛していた女性ファニーにも捨てられたジョルロア。そんな彼はどうにかして再起を図ろうとしますが、『追放された元貴族』という肩書は非常に悪い印象を放ってしまいました。
 それによってまともな仕事に就くことはできず、仕方がなく――。本当に仕方なく自身が『ゴミがする仕事』だと称していた日雇いの労働を始めましたが、

「平民如きが偉そうに命令するな!! こんな仕事こっちから願い下げだ!!」

 プライドの高さによってすぐ感情が爆発し、ころころと職を変え、やがて悪評が広まり雇ってくれるところは完全になくなってしまったのでした。
 そのため野宿と残飯漁りを繰り返す日々となってしまい、当然、ジョルロアがそんな日常に耐えられるはずがありませんでした。

『あの頃に、戻りたい……!! なにひとつ不自由のなかったあの日々に、戻りたい……!! 神様、時間を巻き戻してください……!!』

 もう、奇跡しかない――。そんな理由で必死の神頼みが始まりますが、残念ながら――その願いが叶う日が訪れることは、ありません。

「ファニーという女と出会ったしまったせいで、こんな目に遭っているんです……!!」

「マエリスがもっと魅力的だったら、心変わりしてファニーと縁を切れていたんです……! 俺はずっと、女に恵まれていなかったんです……!!」

「叔父やアルスが邪な企みをしていなければ、なにも起こらなかったんです……!!」

 いつまでも、どこまでも責任転嫁で他責思考。自分の比は殆どないと――1割もないと主する有様。
 こんな考えを持ち主を助ける存在は、ありません。

「お願いします……! お願いします……!! 綺麗な服を着て……美味しいものを好きなだけ食べて……大きなベッドで寝る……。あの日々に、戻してください……!!」

 ですのでこれから先も、ずっとこんな調子。ジョルロアは憐れに叫び続け、憐れに歳を取ってゆくのでした――。
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