貴方は人を愛せなくなっていたはずですよね?

柚木ゆず

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番外編 ファニーのその後 俯瞰視点(5)

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「わ、ワシの、家……? ここが、ですか……?」

 背後に停まった馬車から降りてきたのは、70代半ばに見える細身の男性。明らかにルゾートではない老人と目の前にある大きな家を、何度も何度も交互に見ました。

「? ご存じではない、と……?」
「え? え……? ここは……。ルゾート・アズトさんのお家、ですよ……? なんで――あっ、そっか! ご両親なのですねっ」
「ルゾート? 誰です、その人は? ここはワシが所有する家ですよ?」
「ぇ…………そ、そんな……。え……? だ、だって……。う、うそ……? タチの悪いご冗談を仰って――………………。うそ、じゃないんだ……」

 その老人は控えていた若い男性に門を開けさせ、その男は更に金色の鍵を使って玄関も開けたのでした。

「で、でもっ! 待って! 待ってください! あたしは一か月前にここにルゾートに招待されて来たんです! 中に入ってっ、一緒に過ごしたんですよ!? いつの間に貴方の所有物件になっているんですか!?」
「………………そのご様子、どうやら嘘ではないようですな。まさか……」
「どっ、どうされたんですか!?」
「……ワシは、使用人彼女達に付き添ってもらって……。一か月半前から今日まで、隣国にいる娘と孫に会いに行っていたのです……。あのお家は、ずっと留守になっていたんですよ……」

 家を空けている間に、そのルゾートと名乗る男が勝手に使用していた。
 老人は、顔を強張らせながら我が家(わがや)を見つめました。

「ワタシの身内にアズト姓の者はおりませんし、誰かに貸してもいません。合鍵を作って無断で入った、そうとしか思えませんよ……」
「…………………………」
「しかし、目的が分かりませんな……。勝手に入った家に、女性を招待するだなんて……。なにを企んでおるのだ――!? どうされましたか!?」

 ぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!
 ファニーが突然絶叫し、老人はビクッと仰け反りました。

「目的は、分かった……。アイツは……! アイツは……!! あたしを騙すために連れてきたんだわ!!」

 その予想は、大正解でした。

 貿易商ルゾート・アズト。

 そんな人間は、存在しません。
 ルゾートを名乗っていた男は、あちこちで悪事を働いている詐欺師。大きな家に住むファニーに目をつけ、彼女から『金』を取るために近づいていたのです。

「一目見た時から、君に感じるものがあったんだ」
 アピールするファニーにすぐさま応じたのは、ターゲットだから。

「プレゼントだよ。受け取って欲しい」
 定期的に高価なものを渡していたのは、自分は金持ちだと思い込ませるため。

「今度、僕の家に招待するよ」
 留守を見計らって入り込んだ他人の家に招待したのは、『思い込み』をより確固たるものにするため。

「そこで…………情けない、恥ずかしい発言を許して欲しい。ファニー。お金を貸して欲しいんだ」
「もう一つ、すまない。お金武器は大いに越したことはなくてね、今までプレゼントしたものもお借りしていいかな? 無論こちらに関しても借用書を用意するし、すべて必ず後日お返しするから」
 お願いをしたのは目的を果たすためで、もう一つお願いしたのはプレゼントを回収するため。

 ファニーはずっと、詐欺師に翻弄されていたのでした。


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