もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました

柚木ゆず

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第13話 氷解 アンナ視点(2)

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「あの時の――。アドリアンだった頃の僕は、死の間際に約束をしたのですよ」

 伸ばそうとしていた手を、突然引っ込めてしまわれたダヴィッド様。先ほどまであった申し訳なさの中に、大きな忸怩の感情が混ざりました。
 死の間際の、約束。

『生まれ変わったら記憶がなくなっていて、お互い近くに住んではいないかもしれない。でも、たとえそうだったとしても。どんな障害があっても乗り越えて、必ずやその手を握り締めにいくから。次こそは最後まで君を守るから、待っていておくれ』

 ですね。

「僕は、障害を――僕のせいで生まれてしまった障害を、兄ロマニの策謀を、まだ解決できていません。……そんな僕には、貴方の手を取る資格はないのですよ」
「そんな、そちらはダヴィッド様の責任ではありません。私も同じく、前世からの繋がりを、抱いていた好意を別の感情だと勘違いしてしまっておりました。大事な約束と記憶を忘れてしまっていました。そしてなにより、ああいった方だと見抜けず婚約した私に責任があります……っ」
「いいえ。僕は先に逝くお詫びとして、どこにいても迎えに行くと誓いました。……『君を守り続けるから』――。先に去ってしまったことによって、前世のプロポーズでの約束を、すでに反故にしてしまっておりますので。嘘を重ねたまま手を握ることはできないのですよ」

 僕の勝手な意地で、この場で行えず申し訳ございません。お許しください。
 ダヴィッド様は、唇を噛みながら頭を下げられて――。頭が上がると私は、迷わず首を左右に振りました。

「ダヴィッド様にとっては、やっと伝えられたことでして。ダヴィッド様が本当は、誰よりもそうしたいと思ってくださっている。そちらを理解できますので。私は今、とても幸せに感じていますよ」
「…………ありがとうございます。アンナ様、今夜必ず終止符を打ちますので。あと数時間、我が儘にお付き合いください」
「はい。夜は、よろしくお願い致します」

 そうして私達は微笑み合い、もう少しお話を――したいところなのですが、お互いに夜会の準備などがあります。そのため一旦・・お別れとなり、私達はそれぞれ支度を行います。
 そして、

「アンナ、迎えに来たよ。ゆこうか」

 私はこの方との最後の移動を行い、やがて会場に到着。ダーベニック侯爵様主催の夜会が――私達にとって大きな意味を持つ夜会が、幕を開けたのでした。

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