困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず

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第2話 理由 アン視点

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「アン、あのね……。今朝、君が死んでしまう夢を見たんだ」

「棺の中で眠り続ける君を目にしたら、涙が止まらなくなった……。絶望して、生きているのも嫌になった……。……君という人を亡くして、ようやく気が付いたんだ。俺は君を深く愛していたのだと。ずっと傍に居て欲しいと思っているのだとね」

「だから、反省した。反省したから全てを謝罪をして、改めて一からやり直させて欲しいとお願いを――懇願しているんだ。……アン、今までごめんなさい。これからまた、仲良くしてくれませんか?」

 イブライム様に、突然両手を強く握られたあとのこと。わたしは丁寧に食堂へと案内され、気落ちしている――ように見えるダニエル様とアリックス様が見守る中、同じく傷心している風に見えるイブライム様から説明を受けた。

 夢の中で自分はかつてない程にショックを受け、絶望し半ば廃人のようになってしまった。
 わたしを絶対に失いたくなくて、そう気付いたから一緒に歩んでいきたい。

 それが、先の言葉の理由だそう。

「支援を受けるまではペコペコして……。借金がなくなったら急にがらりと態度を変えて……。あんな汚く狭い場所に閉じ込めて……。無視して、ストレス発散のはけ口にして嗤って……。俺は――俺達家族は、取り返しのつかない真似をしてしまった」
「……イブライムの言う通りだ……」「……ええ……。その通りね……」
「……本来ならそんな人間に、あんな言葉を口にする資格はないと重々理解している……。だけど、君が居てくれないと駄目なのだと気が付いてしまったんだ……。だから、アン。お願いします。二度とあんな真似はしないし、ずっと幸せにする――させてもらうと誓うから。関係を戻してください」

 そう言うやイブライム様は、ダニエル様とアリックス様、そしてすべての使用人たちを自身の後ろに集め、全員揃って深々と頭を下げた。

「……アン、一回だけチャンスをください。君を愛する許可をください。お願いします」

 そして、続いてそう言うけれど――。あんな性格の持ち主がその程度で省みるはずがなく、信用なんてできるはずがない。
 なので『嫌です』と即答したいけど、あちらは『あんな性格の持ち主』。ここで拒絶してしまったら、逆上するなど何をされるか分からない。

((だから……。とりあえず、イエス、と返しておいた方がいいわね))

 とにかく、手のひら返しに関する情報を集めないといけない。
 そう判断し、まずは心にしっかりと蓋。つい本心が漏れだしてしまわないよう不快感などを心の奥底に封印したわたしは、

「そんな風に仰っていただけて、嬉しいです。はい……っ。改めて、これからよろしくお願い致します。イブライム様」

 心を許したフリをして頷きを返し、感極まるイブライム様に強く抱き締められたのだった。

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