12 / 88
第6話 幼馴染2人のその後~リュクレースの場合・その1~ リュクレース視点(1)
しおりを挟む
「お久しぶりです、リュクレース様。今日という日が、楽しみで仕方がありませんでしたよ」
「わたしもです、フィリベール様。お約束をしてからずっと、楽しみにしておりました」
あの日から一週間後の、正午に十数分前。わたし達は、2階建ての建物の中に――先生が所有されている練習施設の一室にいて、言葉を交わすや自然と笑みが零れました。
フィリベール様と行う連弾。
どのような音になるのか、良い意味でまったく想像がつかなくて。予想するだけでワクワクが止まらなくなり、小さな子どものようにソワソワしていました。
「先生が手配をしてくださり、ついさきほど調律なども済ませてくださったそうです。ピアノは万全ですから、僕達の準備を整えましょうか」
「そうですね。始めましょう」
今は冬で、わたし達は外から移動してきたので身体は冷えてしまっています。そこで滑らかに動かせるように手と足を中心とした各所のストレッチなどを入念に行い、お互いしっかりと全身が温まりました。
ですのでわたし達は設置されているピアノへと向かい、鍵盤から向かって右側にわたしが座り、向かって左側にフィリベール様が着席しました。
「……………………。リュクレース様、始めましょうか」
「……………………。はい、始めましょう。フィリベール様」
お互い目の前にある鍵盤に触れて感触や音色を確かめ、そちらが済むと頷き合います。そうして声と動作で、互いの呼吸を合わせて――
演奏が、始まる。
『~♪~♪~♪~♪』
この曲は、作曲者様のこだわりにより――まずはマトローシュルズ湖の『水』と『空気』を表現するために、最初の20秒は半分ずつ単独で演奏をします。
まずは高音担当のわたしが、10秒『水』を表す音を――穏やかで澄んだ音を奏で、およそ1秒の無音を挟み、低音担当であるフィリベール様の演奏が始まります。
『~♪~♪~♪~♪』
マトローシュルズ湖の『空気』を表す、音。おもわずずっと耳を傾けていたくなる、清らかで真っすぐな音色が10秒間響き――
いよいよ、共演が始まります。
『~♪~♪~♪~♪』
『~♪~♪~♪~♪』
水と空気の融合。これまで個々だった音が、絡み合うようになって――本当に、すぐのことでした。
((……すごい。綺麗……!))
心の中で自然と、そういった言葉が生まれました。
『~♪~♪~♪~♪』
『~♪~♪~♪~♪』
フィリベール様が生み出す、体内にスゥッと入って優しく満たしてくれるような透明感に満ちた音。わたしが生み出す、体表を柔らかくつたい優しく包み込むような透明感に満ちた音。
そんな体『内』と体『外』に作用する音が手を取り合うことで、その音たちは新たな姿を見せてくれる。単独だと『空気』と『水』である音は、合わさることで『マトローシュルズ湖』になるんです。
『~♪~♪~♪~♪』
『~♪~♪~♪~♪』
((……こんなことが、あるだなんて……!))
あの場所、あの景気が浮かんでくる。
連弾はこれまで何度か行ったことがありますが――。自分が弾いている音で、その曲のもととなっているところが浮かんでくることは今まで一度もありませんでした。
そんな初めてのことが、起きている。
そんな事実に驚き――ますが、すぐにそんな感情は消えてしまいます。
なぜならば、
『~♪~♪~♪~♪』
『~♪~♪~♪~♪』
((楽しい……!))
『驚き』が埋め尽くされて消えてしまうほどに、そんな感情が溢れてくるからです。
『~♪~♪~♪~♪』
『~♪~♪~♪~♪』
((楽しい……! 楽しい……っ!))
もっともっと弾きたい。もっともっとこの音を聴きたい。
わたしはすっかり『調和の音』に魅了され、無意識的に笑みを浮かべながら一心不乱に指を走らせ――
3分56秒。
あっという間でした。
気が付くと演奏が終わっていて、わたしは――わたしだけでなく、フィリベール様もそうでした。
「……………………」
「……………………」
頬を紅潮させ、たった今経験した感動に心と身体を振るわせていたのでした。
「わたしもです、フィリベール様。お約束をしてからずっと、楽しみにしておりました」
あの日から一週間後の、正午に十数分前。わたし達は、2階建ての建物の中に――先生が所有されている練習施設の一室にいて、言葉を交わすや自然と笑みが零れました。
フィリベール様と行う連弾。
どのような音になるのか、良い意味でまったく想像がつかなくて。予想するだけでワクワクが止まらなくなり、小さな子どものようにソワソワしていました。
「先生が手配をしてくださり、ついさきほど調律なども済ませてくださったそうです。ピアノは万全ですから、僕達の準備を整えましょうか」
「そうですね。始めましょう」
今は冬で、わたし達は外から移動してきたので身体は冷えてしまっています。そこで滑らかに動かせるように手と足を中心とした各所のストレッチなどを入念に行い、お互いしっかりと全身が温まりました。
ですのでわたし達は設置されているピアノへと向かい、鍵盤から向かって右側にわたしが座り、向かって左側にフィリベール様が着席しました。
「……………………。リュクレース様、始めましょうか」
「……………………。はい、始めましょう。フィリベール様」
お互い目の前にある鍵盤に触れて感触や音色を確かめ、そちらが済むと頷き合います。そうして声と動作で、互いの呼吸を合わせて――
演奏が、始まる。
『~♪~♪~♪~♪』
この曲は、作曲者様のこだわりにより――まずはマトローシュルズ湖の『水』と『空気』を表現するために、最初の20秒は半分ずつ単独で演奏をします。
まずは高音担当のわたしが、10秒『水』を表す音を――穏やかで澄んだ音を奏で、およそ1秒の無音を挟み、低音担当であるフィリベール様の演奏が始まります。
『~♪~♪~♪~♪』
マトローシュルズ湖の『空気』を表す、音。おもわずずっと耳を傾けていたくなる、清らかで真っすぐな音色が10秒間響き――
いよいよ、共演が始まります。
『~♪~♪~♪~♪』
『~♪~♪~♪~♪』
水と空気の融合。これまで個々だった音が、絡み合うようになって――本当に、すぐのことでした。
((……すごい。綺麗……!))
心の中で自然と、そういった言葉が生まれました。
『~♪~♪~♪~♪』
『~♪~♪~♪~♪』
フィリベール様が生み出す、体内にスゥッと入って優しく満たしてくれるような透明感に満ちた音。わたしが生み出す、体表を柔らかくつたい優しく包み込むような透明感に満ちた音。
そんな体『内』と体『外』に作用する音が手を取り合うことで、その音たちは新たな姿を見せてくれる。単独だと『空気』と『水』である音は、合わさることで『マトローシュルズ湖』になるんです。
『~♪~♪~♪~♪』
『~♪~♪~♪~♪』
((……こんなことが、あるだなんて……!))
あの場所、あの景気が浮かんでくる。
連弾はこれまで何度か行ったことがありますが――。自分が弾いている音で、その曲のもととなっているところが浮かんでくることは今まで一度もありませんでした。
そんな初めてのことが、起きている。
そんな事実に驚き――ますが、すぐにそんな感情は消えてしまいます。
なぜならば、
『~♪~♪~♪~♪』
『~♪~♪~♪~♪』
((楽しい……!))
『驚き』が埋め尽くされて消えてしまうほどに、そんな感情が溢れてくるからです。
『~♪~♪~♪~♪』
『~♪~♪~♪~♪』
((楽しい……! 楽しい……っ!))
もっともっと弾きたい。もっともっとこの音を聴きたい。
わたしはすっかり『調和の音』に魅了され、無意識的に笑みを浮かべながら一心不乱に指を走らせ――
3分56秒。
あっという間でした。
気が付くと演奏が終わっていて、わたしは――わたしだけでなく、フィリベール様もそうでした。
「……………………」
「……………………」
頬を紅潮させ、たった今経験した感動に心と身体を振るわせていたのでした。
1,084
あなたにおすすめの小説
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
才能が開花した瞬間、婚約を破棄されました。ついでに実家も追放されました。
キョウキョウ
恋愛
ヴァーレンティア子爵家の令嬢エリアナは、一般人の半分以下という致命的な魔力不足に悩んでいた。伯爵家の跡取りである婚約者ヴィクターからは日々厳しく責められ、自分の価値を見出せずにいた。
そんな彼女が、厳しい指導を乗り越えて伝説の「古代魔法」の習得に成功した。100年以上前から使い手が現れていない、全ての魔法の根源とされる究極の力。喜び勇んで婚約者に報告しようとしたその瞬間――
「君との婚約を破棄することが決まった」
皮肉にも、人生最高の瞬間が人生最悪の瞬間と重なってしまう。さらに実家からは除籍処分を言い渡され、身一つで屋敷から追い出される。すべてを失ったエリアナ。
だけど、彼女には頼れる師匠がいた。世界最高峰の魔法使いソリウスと共に旅立つことにしたエリアナは、古代魔法の力で次々と困難を解決し、やがて大きな名声を獲得していく。
一方、エリアナを捨てた元婚約者ヴィクターと実家は、不運が重なる厳しい現実に直面する。エリアナの大活躍を知った時には、すべてが手遅れだった。
真の実力と愛を手に入れたエリアナは、もう振り返る理由はない。
これは、自分の価値を理解してくれない者たちを結果的に見返し、厳しい時期に寄り添ってくれた人と幸せを掴む物語。
【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ
との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。
「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。
政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。
ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。
地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。
全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。
祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
「いらない」と捨てられた令嬢、実は全属性持ちの聖女でした
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・エヴァンス。お前との婚約は破棄する。もう用済み
そう言い放ったのは、五年間想い続けた婚約者――王太子アレクシスさま。
広間に響く冷たい声。貴族たちの視線が一斉に私へ突き刺さる。
「アレクシスさま……どういう、ことでしょうか……?」
震える声で問い返すと、彼は心底嫌そうに眉を顰めた。
「言葉の意味が理解できないのか? ――お前は“無属性”だ。魔法の才能もなければ、聖女の資質もない。王太子妃として役不足だ」
「無……属性?」
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
【完結】さようなら。毒親と毒姉に利用され、虐げられる人生はもう御免です 〜復讐として隣国の王家に嫁いだら、婚約者に溺愛されました〜
ゆうき
恋愛
父の一夜の過ちによって生を受け、聖女の力を持って生まれてしまったことで、姉に聖女の力を持って生まれてくることを望んでいた家族に虐げられて生きてきた王女セリアは、隣国との戦争を再び引き起こした大罪人として、処刑されてしまった。
しかし、それは現実で起こったことではなく、聖女の力による予知の力で見た、自分の破滅の未来だった。
生まれて初めてみた、自分の予知。しかも、予知を見てしまうと、もうその人の不幸は、内容が変えられても、不幸が起こることは変えられない。
それでも、このまま何もしなければ、身に覚えのないことで処刑されてしまう。日頃から、戦争で亡くなった母の元に早く行きたいと思っていたセリアだが、いざ破滅の未来を見たら、そんなのはまっぴら御免だと強く感じた。
幼い頃は、白馬に乗った王子様が助けに来てくれると夢見ていたが、未来は自分で勝ち取るものだと考えたセリアは、一つの疑問を口にする。
「……そもそも、どうして私がこんな仕打ちを受けなくちゃいけないの?」
初めて前向きになったセリアに浮かんだのは、疑問と――恨み。その瞬間、セリアは心に誓った。自分を虐げてきた家族と、母を奪った戦争の元凶である、隣国に復讐をしようと。
そんな彼女にとある情報が舞い込む。長年戦争をしていた隣国の王家が、友好の証として、王子の婚約者を探していると。
これは復讐に使えると思ったセリアは、その婚約者に立候補しようとするが……この時のセリアはまだ知らない。復讐をしようとしている隣国の王子が、運命の相手だということを。そして、彼に溺愛される未来が待っていることも。
これは、復讐を決意した一人の少女が、復讐と運命の相手との出会いを経て、幸せに至るまでの物語。
☆既に全話執筆、予約投稿済みです☆
妹は私から奪った気でいますが、墓穴を掘っただけでした。私は溺愛されました。どっちがバカかなぁ~?
百谷シカ
恋愛
「お姉様はバカよ! 女なら愛される努力をしなくちゃ♪」
妹のアラベラが私を高らかに嘲笑った。
私はカーニー伯爵令嬢ヒラリー・コンシダイン。
「殿方に口答えするなんて言語道断! ただ可愛く笑っていればいいの!!」
ぶりっ子の妹は、実はこんな女。
私は口答えを理由に婚約を破棄されて、妹が私の元婚約者と結婚する。
「本当は悔しいくせに! 素直に泣いたらぁ~?」
「いえ。そんなくだらない理由で乗り換える殿方なんて願い下げよ」
「はあっ!? そういうところが淑女失格なのよ? バーカ」
淑女失格の烙印を捺された私は、寄宿学校へとぶち込まれた。
そこで出会った哲学の教授アルジャノン・クロフト氏。
彼は婚約者に裏切られ学問一筋の人生を選んだドウェイン伯爵その人だった。
「ヒラリー……君こそが人生の答えだ!!」
「えっ?」
で、惚れられてしまったのですが。
その頃、既に転落し始めていた妹の噂が届く。
あー、ほら。言わんこっちゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる