69 / 88
第33話 予想外、2つ ソフィ―視点(1)
しおりを挟む
「リュクレースがピアノを弾けていた!? しかも、銅賞をとった……!?」
演奏の成功どころか、史上初の快挙を成し遂げた。吉報を待っていたわたくしのもとに最悪の悲報が届き、エントランスで頭を抱えた。
「嘘でしょ……!? ねえ!! 嘘なんでしょう!? わたくしを困らせるためにありもしないことを言っているだけよね!?」
「……こ、こちらはすべて、事実でございます……」
「あの女の弱点をついたのよ!? まともな演奏ができなくなるようにお守りを盗ませたのよ!? なのにどういうこと!? 演奏――いつも以上に演奏できているってっ、どういうことなのよ!?」
リュクレースは異常に緊張に弱くて、アレがなければ生まれたての小鹿みたいにブルブル震える。そんな状態でどうやって演奏したのよ!?
「貴男に見届けさせたのだからっ、客席で観ていたでしょ!? 様子は!? アレはどんな様子だったの!?」
「終始、リラックスしておりました。こちらまでき――」
「き!? なによ!?」
「し、失礼しましたっ、なんでもございませんっ。演奏を楽しんでいたようでして、緊張の色はまったく感じられませんでした」
…………信じられない。
演奏を楽しんでいた……!?
お守りがなければ何もできない、アイツが……!?
「…………まさか、盗み損ねた……!? 失敗していて、お守りを持っていた……!?」
「いえ、それはありえません。外に、成功の印が置かれておりました故」
わたくしの駒は関係者として忍び込んでいて、万が一の発覚に備えて盗んだら即会場および敷地から離れるよう命じてある。それにより報告をできないから、仲間に分からない合図を仕込むように言っていて――。
それが置かれていたら今夜、お守りと引き換えに報酬を渡す約束になっている。
そんな駒は、その際に口封じをされると知らない。嘘をついたら報酬をもらえないどころか恨みを買いかねなくて、『ある』は間違いなく成功した証となるわね……。
「考えられますのは……。そうですね……。克服、でし」
「あり得ないわ!! それはわたくしがよく分かっている!! 適当なことを言うな! 発言に自信がないなら黙っていなさい!!」
空気の読めないバカを一喝し、……………………。深呼吸を20回くらい行って、気持ちを切り替える。
「…………………………起きてしまったものは、しょうがないですわね。いつまでもひとつのことに執着するのは、馬鹿な者がする愚行。新たな手を考えましょう」
今度こそ、仕留められるように。
わたくしは新たな策を練り始め、さすが文武両道なソフィー・ヤリュータレアス。ほどなく新たな妙案が見つかり、次こそ仕置きをできる――
「………………な……。な…………」
――はず、だったのに――
演奏の成功どころか、史上初の快挙を成し遂げた。吉報を待っていたわたくしのもとに最悪の悲報が届き、エントランスで頭を抱えた。
「嘘でしょ……!? ねえ!! 嘘なんでしょう!? わたくしを困らせるためにありもしないことを言っているだけよね!?」
「……こ、こちらはすべて、事実でございます……」
「あの女の弱点をついたのよ!? まともな演奏ができなくなるようにお守りを盗ませたのよ!? なのにどういうこと!? 演奏――いつも以上に演奏できているってっ、どういうことなのよ!?」
リュクレースは異常に緊張に弱くて、アレがなければ生まれたての小鹿みたいにブルブル震える。そんな状態でどうやって演奏したのよ!?
「貴男に見届けさせたのだからっ、客席で観ていたでしょ!? 様子は!? アレはどんな様子だったの!?」
「終始、リラックスしておりました。こちらまでき――」
「き!? なによ!?」
「し、失礼しましたっ、なんでもございませんっ。演奏を楽しんでいたようでして、緊張の色はまったく感じられませんでした」
…………信じられない。
演奏を楽しんでいた……!?
お守りがなければ何もできない、アイツが……!?
「…………まさか、盗み損ねた……!? 失敗していて、お守りを持っていた……!?」
「いえ、それはありえません。外に、成功の印が置かれておりました故」
わたくしの駒は関係者として忍び込んでいて、万が一の発覚に備えて盗んだら即会場および敷地から離れるよう命じてある。それにより報告をできないから、仲間に分からない合図を仕込むように言っていて――。
それが置かれていたら今夜、お守りと引き換えに報酬を渡す約束になっている。
そんな駒は、その際に口封じをされると知らない。嘘をついたら報酬をもらえないどころか恨みを買いかねなくて、『ある』は間違いなく成功した証となるわね……。
「考えられますのは……。そうですね……。克服、でし」
「あり得ないわ!! それはわたくしがよく分かっている!! 適当なことを言うな! 発言に自信がないなら黙っていなさい!!」
空気の読めないバカを一喝し、……………………。深呼吸を20回くらい行って、気持ちを切り替える。
「…………………………起きてしまったものは、しょうがないですわね。いつまでもひとつのことに執着するのは、馬鹿な者がする愚行。新たな手を考えましょう」
今度こそ、仕留められるように。
わたくしは新たな策を練り始め、さすが文武両道なソフィー・ヤリュータレアス。ほどなく新たな妙案が見つかり、次こそ仕置きをできる――
「………………な……。な…………」
――はず、だったのに――
442
あなたにおすすめの小説
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
婚約破棄されたショックで前世の記憶を取り戻して料理人になったら、王太子殿下に溺愛されました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
シンクレア伯爵家の令嬢ナウシカは両親を失い、伯爵家の相続人となっていた。伯爵家は莫大な資産となる聖銀鉱山を所有していたが、それを狙ってグレイ男爵父娘が罠を仕掛けた。ナウシカの婚約者ソルトーン侯爵家令息エーミールを籠絡して婚約破棄させ、そのショックで死んだように見せかけて領地と鉱山を奪おうとしたのだ。死にかけたナウシカだが奇跡的に助かったうえに、転生前の記憶まで取り戻したのだった。
あなたと妹がキモ……恐いので、婚約破棄でOKです。あ、あと慰謝料ください。
百谷シカ
恋愛
「妹が帰って来たので、今日はこれにて。また連絡するよ、ルイゾン」
「えっ? あ……」
婚約中のティボー伯爵令息マルク・バゼーヌが、結婚準備も兼ねた食事会を中座した。
理由は、出戻りした妹フェリシエンヌの涙の乱入。
それからというもの、まったく音沙汰ナシよ。
結婚予定日が迫り連絡してみたら、もう、最悪。
「君には良き姉としてフェリシエンヌを支えてほしい。婿探しを手伝ってくれ」
「お兄様のように素敵な方なんて、この世にいるわけがないわ」
「えっ? あ……ええっ!?」
私はシドニー伯爵令嬢ルイゾン・ジュアン。
婚約者とその妹の仲が良すぎて、若干の悪寒に震えている。
そして。
「あなたなんかにお兄様は渡さないわ!」
「無責任だな。妹の婿候補を連れて来られないなら、君との婚約は破棄させてもらう」
「あー……それで、結構です」
まったく、馬鹿にされたものだわ!
私はフェリシエンヌにあらぬ噂を流され、有責者として婚約を破棄された。
「お兄様を誘惑し、私を侮辱した罪は、すっごく重いんだからね!」
なんと、まさかの慰謝料請求される側。
困った私は、幼馴染のラモー伯爵令息リシャール・サヴァチエに助けを求めた。
彼は宮廷で執政官補佐を務めているから、法律に詳しいはず……
元平民だった侯爵令嬢の、たった一つの願い
雲乃琳雨
恋愛
バートン侯爵家の跡取りだった父を持つニナリアは、潜伏先の家から祖父に連れ去られ、侯爵家でメイドとして働いていた。18歳になったニナリアは、祖父の命令で従姉の代わりに元平民の騎士、アレン・ラディー子爵に嫁ぐことになる。
ニナリアは母のもとに戻りたいので、アレンと離婚したくて仕方がなかったが、結婚は国王の命令でもあったので、アレンが離婚に応じるはずもなかった。アレンが初めから溺愛してきたので、ニナリアは戸惑う。ニナリアは、自分の目的を果たすことができるのか?
元平民の侯爵令嬢が、自分の人生を取り戻す、溺愛から始まる物語。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?【完結】
小平ニコ
恋愛
「パメラが熱を出したから、今日は約束の場所に行けなくなった。今度埋め合わせするから許してくれ」
ジョセフはそう言って、婚約者である私とのデートをキャンセルした。……いったいこれで、何度目のドタキャンだろう。彼はいつも、体の弱い幼馴染――パメラを優先し、私をないがしろにする。『埋め合わせするから』というのも、口だけだ。
きっと私のことを、適当に謝っておけば何でも許してくれる、甘い女だと思っているのだろう。
いい加減うんざりした私は、ジョセフとの婚約関係を終わらせることにした。パメラは嬉しそうに笑っていたが、ジョセフは大いにショックを受けている。……それはそうでしょうね。私のお父様からの援助がなければ、ジョセフの家は、貴族らしい、ぜいたくな暮らしを続けることはできないのだから。
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる