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第38話 とある決断 フィリベール視点
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僕の心の中にこの感情が生まれたのは、『エジュトーンの森』での出来事が切っ掛けだった。
『こちらから二十数分ほど北に進んだ地点に、先日父の旧友が移転オープンをしたカフェが――ウチ以外の貴族も何名かお忍びで通っている、ケーキと紅茶が美味しいお店があるのですよ。挨拶がてらにあとで寄ろうと思っておりまして、お時間に余裕はございますか?』
『はっ、はいっ。本日は他の予定は入れておらず、時間に余裕があります。ですが、今回はお気持ちだけいただいておきます』
リュクレース様は、以前からお会いした時は気を遣ってくださっていた。思いやりのあるとてもお優しい方。
『………………すごかった、ですね……』
『………………すごかった、ですね……』
『……リュクレース様となら、ならではの音を作り出せると思っていました。ですが、それ以上のことが、待っていましたね』
『……はい。わたしの想像、予想も、軽々と超えてゆきました』
リュクレース様は、一緒にピアノを弾いていて楽しくなる方。
『知りませんでした。フィリベール様は、ドーナツがお好きなんですね』
『甘いものに目がなく、とくにドーナツは大好物なんです。あれば一度に2~3個食べてしまいます』
『甘いものがお好きなのは知っていましたが、そうなのですね。でしたら、もしかして』
『ええ、正解です。食べたくなっていま』
リュクレース様は、一緒に過ごしていると楽しくなる方。
なのでずっと特別な思い、『LIKE』という名の好意を抱いていた。
そしてその気持ちは、ずっと変わらないのだと思っていた。
でも、それは違っていた。
『フィリベール! お久しぶりですわ! 貴男にお話がありますの!』
ミシェルが目の前に現れて、改めて『現実』に直面した時。再び様々な感情が押し寄せて来た。
――もっと上手くできたんじゃないのか?――。
――違う結末を迎えられたんじゃないのか?――。
そのようないくつもの後悔が生まれていた、時だった。
『これまでずっと守っていてくださり、ありがとうございました』
『フィリベール様が檻となられていなければ、同門であるわたし――先生のもとにいる同性全員に、何が起きていたか分かりません。ですので、感謝と、敬意を抱いています』
そんな僕に、そんな言葉を、本音でかけてくださったのだった。
『…………そのようなものまでいただけるとは、夢にも思いませんでした。こちらも、お言葉に甘えさせていただきますね』
あのように言ってもらえたのは初めてで、初めて前向きに現状を捉えられるようになった。
だから、そうなるのは当然だった。
『LOVE』という名の、新しい『好意』が生まれる。
そしてその感情は、僕の心の中で爆発的に増えていく。
『……音が、響く……。浸透してゆく……』
『……こんなこと、始め……。これも、初めてだ……!』
『いつもよりも音が絡まり合って……。密着して……。溶け合う……』
ひとつになって、より深い形でリュクレース様を感じられたこと。
それらによって、もともと沢山あった『LIKE』の感情がすべて『LOVE』に姿を変えたこと。
ソレによって僕の心の中は『LOVE』一色になって、あっという間に――信じられない程の速さで、抑えきれないものとなったのだった。
((リュクレース様が、好きだ。でも……))
僕は、ミシェルの元婚約者。途中から好意はなくなっていたものの、最初は確かな愛があったし、婚約を心から喜んでいる時期もあった。
――そんな自分が、想いを伝えていいのか? 失礼ではないか?――。
悩んだ。
そこについても、そこ以外の点についても、何度も考えた。
でもそれでも、この気持ちを抑えることはできなかった。
そこで父上に相談をし、幸いにも許しを得た。
だから、だから僕は――
『こちらから二十数分ほど北に進んだ地点に、先日父の旧友が移転オープンをしたカフェが――ウチ以外の貴族も何名かお忍びで通っている、ケーキと紅茶が美味しいお店があるのですよ。挨拶がてらにあとで寄ろうと思っておりまして、お時間に余裕はございますか?』
『はっ、はいっ。本日は他の予定は入れておらず、時間に余裕があります。ですが、今回はお気持ちだけいただいておきます』
リュクレース様は、以前からお会いした時は気を遣ってくださっていた。思いやりのあるとてもお優しい方。
『………………すごかった、ですね……』
『………………すごかった、ですね……』
『……リュクレース様となら、ならではの音を作り出せると思っていました。ですが、それ以上のことが、待っていましたね』
『……はい。わたしの想像、予想も、軽々と超えてゆきました』
リュクレース様は、一緒にピアノを弾いていて楽しくなる方。
『知りませんでした。フィリベール様は、ドーナツがお好きなんですね』
『甘いものに目がなく、とくにドーナツは大好物なんです。あれば一度に2~3個食べてしまいます』
『甘いものがお好きなのは知っていましたが、そうなのですね。でしたら、もしかして』
『ええ、正解です。食べたくなっていま』
リュクレース様は、一緒に過ごしていると楽しくなる方。
なのでずっと特別な思い、『LIKE』という名の好意を抱いていた。
そしてその気持ちは、ずっと変わらないのだと思っていた。
でも、それは違っていた。
『フィリベール! お久しぶりですわ! 貴男にお話がありますの!』
ミシェルが目の前に現れて、改めて『現実』に直面した時。再び様々な感情が押し寄せて来た。
――もっと上手くできたんじゃないのか?――。
――違う結末を迎えられたんじゃないのか?――。
そのようないくつもの後悔が生まれていた、時だった。
『これまでずっと守っていてくださり、ありがとうございました』
『フィリベール様が檻となられていなければ、同門であるわたし――先生のもとにいる同性全員に、何が起きていたか分かりません。ですので、感謝と、敬意を抱いています』
そんな僕に、そんな言葉を、本音でかけてくださったのだった。
『…………そのようなものまでいただけるとは、夢にも思いませんでした。こちらも、お言葉に甘えさせていただきますね』
あのように言ってもらえたのは初めてで、初めて前向きに現状を捉えられるようになった。
だから、そうなるのは当然だった。
『LOVE』という名の、新しい『好意』が生まれる。
そしてその感情は、僕の心の中で爆発的に増えていく。
『……音が、響く……。浸透してゆく……』
『……こんなこと、始め……。これも、初めてだ……!』
『いつもよりも音が絡まり合って……。密着して……。溶け合う……』
ひとつになって、より深い形でリュクレース様を感じられたこと。
それらによって、もともと沢山あった『LIKE』の感情がすべて『LOVE』に姿を変えたこと。
ソレによって僕の心の中は『LOVE』一色になって、あっという間に――信じられない程の速さで、抑えきれないものとなったのだった。
((リュクレース様が、好きだ。でも……))
僕は、ミシェルの元婚約者。途中から好意はなくなっていたものの、最初は確かな愛があったし、婚約を心から喜んでいる時期もあった。
――そんな自分が、想いを伝えていいのか? 失礼ではないか?――。
悩んだ。
そこについても、そこ以外の点についても、何度も考えた。
でもそれでも、この気持ちを抑えることはできなかった。
そこで父上に相談をし、幸いにも許しを得た。
だから、だから僕は――
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