78 / 88
第40話 幼馴染2人のその後~リュクレースの場合・その9~ リュクレース視点(3)
しおりを挟む
「ごきげんよう、リュクレース様。また、一緒でしたね」
「ごきげんよう、フィリベール様。また、一緒でしたね」
10月20日の正午に少し前。マトローシュルズ湖の湖畔。あの日偶然会ったその場所で、わたし達は微苦笑を浮かべていました。
「お手紙が届いた時は、ビックリしましたよ」
「わたしもです。開封して驚きました」
「相手のもとに到着する日に、自分のもとに届く。僕達は出すタイミングもおんなじでしたね」
「そうですね。伝え方、その内容だけでなく、タイミングまでおんなじでした」
クスリと微笑み合いながら、お互い何も言わず歩き出します。
――やっぱり、そうでした――。
どちらも、行き先を相手に伝えてはいません。ですが示し合わせているかのように、ピッタリ同じ方向に進んでいって――わたし達は船に乗り、マトローシュルズ湖の中央にやって来ました。
「ここしか、ありませんよね」
「はい。ここしか、ありません」
わたし達を出会わせてくれた場所。
わたし達を繋げてくれた場所。
わたし達をひとつにしてくれた場所。
フィリベール様もわたしも、そう。『行うならその中心で』との想いがあって、ここを選びました。
「……こういう場合、ズル、になるかもしれませんが。お許しください」
「フィリベール様は悪くありませんよ。仕方がないことですからね」
わたし達は貴族。貴族のルール――伝統があるのですから、そちらは守らないといけませんよね。
「ありがとうございます。……では、失礼します」
船を揺らさないよう静かに動いてくださり、わたしに向かって片膝をつかれました。
「僕は貴方と出会い、たくさんの喜びをいただき、分かち合いました。そしてあの夜、大きなものをいただきました」
「わたしも貴方と出会い、たくさんの喜びをいただき、分かち合いました。そしてあの日、大きなものをいただきました」
どちらも思い出を振り返り、
「そんな出来事であり日々が、僕に特別な感情をもたらしてくれました」
「そんな出来事であり日々が、わたしに特別な感情をもたらしてくれました」
今この胸の中にあるものを、伝えます。
そうしてわたし達は見つめ合い、先に動くのはフィリベール様。フィリベール様は左手をご自身の胸に添え、
「ですので、もう一つお伝えしたいことがございます。……リュクレース・ハルトーン様。僕フィリベール・レイオズンは、貴方様を愛しています。この想いを受け取ってはいただけないでしょうか?」
その言葉と共に、もう片方の右手をこちらへと差し出されました。
「……フィリベール・レイオズン様」
その名前を持つ人は、同じ思いと想いを持つ方。あちらがそうなら、こちらもそうなのです。
ですのでわたしは――
「喜んで。その想い、受け取らせていただきます」
――その手を取り、手の甲に口づけをいただいたのでした。
「…………応えてくださりありがとうございます、リュクレース様。これ以上ない喜びを感じています」
「…………こちらこそ、応えてくださりありがとうございます。わたしも今、これ以上ない喜びを感じています」
「……改めて、これからもよろしくお願い致します」
「……はい。こちらこそ、これからもよろしくお願い致します」
どちらも瞳を揺らしながら言葉を交わし、抱き締め合う。
10月20日。
わたし達が偶然出会ってから、およそ9か月後。
こうしてわたし達の関係は、ひとつ、変化したのでした。
「ごきげんよう、フィリベール様。また、一緒でしたね」
10月20日の正午に少し前。マトローシュルズ湖の湖畔。あの日偶然会ったその場所で、わたし達は微苦笑を浮かべていました。
「お手紙が届いた時は、ビックリしましたよ」
「わたしもです。開封して驚きました」
「相手のもとに到着する日に、自分のもとに届く。僕達は出すタイミングもおんなじでしたね」
「そうですね。伝え方、その内容だけでなく、タイミングまでおんなじでした」
クスリと微笑み合いながら、お互い何も言わず歩き出します。
――やっぱり、そうでした――。
どちらも、行き先を相手に伝えてはいません。ですが示し合わせているかのように、ピッタリ同じ方向に進んでいって――わたし達は船に乗り、マトローシュルズ湖の中央にやって来ました。
「ここしか、ありませんよね」
「はい。ここしか、ありません」
わたし達を出会わせてくれた場所。
わたし達を繋げてくれた場所。
わたし達をひとつにしてくれた場所。
フィリベール様もわたしも、そう。『行うならその中心で』との想いがあって、ここを選びました。
「……こういう場合、ズル、になるかもしれませんが。お許しください」
「フィリベール様は悪くありませんよ。仕方がないことですからね」
わたし達は貴族。貴族のルール――伝統があるのですから、そちらは守らないといけませんよね。
「ありがとうございます。……では、失礼します」
船を揺らさないよう静かに動いてくださり、わたしに向かって片膝をつかれました。
「僕は貴方と出会い、たくさんの喜びをいただき、分かち合いました。そしてあの夜、大きなものをいただきました」
「わたしも貴方と出会い、たくさんの喜びをいただき、分かち合いました。そしてあの日、大きなものをいただきました」
どちらも思い出を振り返り、
「そんな出来事であり日々が、僕に特別な感情をもたらしてくれました」
「そんな出来事であり日々が、わたしに特別な感情をもたらしてくれました」
今この胸の中にあるものを、伝えます。
そうしてわたし達は見つめ合い、先に動くのはフィリベール様。フィリベール様は左手をご自身の胸に添え、
「ですので、もう一つお伝えしたいことがございます。……リュクレース・ハルトーン様。僕フィリベール・レイオズンは、貴方様を愛しています。この想いを受け取ってはいただけないでしょうか?」
その言葉と共に、もう片方の右手をこちらへと差し出されました。
「……フィリベール・レイオズン様」
その名前を持つ人は、同じ思いと想いを持つ方。あちらがそうなら、こちらもそうなのです。
ですのでわたしは――
「喜んで。その想い、受け取らせていただきます」
――その手を取り、手の甲に口づけをいただいたのでした。
「…………応えてくださりありがとうございます、リュクレース様。これ以上ない喜びを感じています」
「…………こちらこそ、応えてくださりありがとうございます。わたしも今、これ以上ない喜びを感じています」
「……改めて、これからもよろしくお願い致します」
「……はい。こちらこそ、これからもよろしくお願い致します」
どちらも瞳を揺らしながら言葉を交わし、抱き締め合う。
10月20日。
わたし達が偶然出会ってから、およそ9か月後。
こうしてわたし達の関係は、ひとつ、変化したのでした。
424
あなたにおすすめの小説
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして”世界を救う”私の成長物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー編
第二章:討伐軍北上編
第三章:魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ
との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。
「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。
政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。
ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。
地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。
全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。
祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~
日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】
https://ncode.syosetu.com/n1741iq/
https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199
【小説家になろうで先行公開中】
https://ncode.syosetu.com/n0091ip/
働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。
地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる