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第3話 動き出す前に リシャール視点(1)
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「こんな時間に、珍しいですね。ビックリしました」
深夜0時を、3分ほど過ぎた頃。俺は今夜2つ目となる扉を叩き、そうすると中から金髪碧眼、だけどツリ目で顎が細く髪の毛に一切の癖がない少女が――。俺よりも母シャンタルの特徴が強く出ている、2歳下の妹であるマリオンが出てきた。
「二人きりでしたい話があってね。中に入っても?」
「もちろんですわ。どうぞ」
マリオンに促されて室内に入り…………この辺りでいいだろう。万が一室外に声が漏れてしまわないよう、窓際に移動して話を始めることにした。
「お兄様がわたくしのお部屋に来てくれるなんて、久しぶりですね。いつぶりでしたっけ?」
「さあ、いつだったかな。随分と前な気がするよ」
「2年? 3年? わたくしも正確に覚えてませんわ」
左へ右へと首を傾げ、マリオンはもう一度左へと首を傾けた。
「こうやって二人っきりでお話しするのも、覚えていないくらい前ですね。どうしたんですか、お兄様?」
「ああうん、本題を話そうか。……俺はね、偶然知ってしまったんだよ」
「偶然、知った? 何をですか?」
「アリスが双子の妹ではないということ。父上と母上が、復讐を兼ねてアリスを売り飛ばそうとしていること。そして――その計画に、マリオンも賛同しているということをだよ」
マリオンは以前からアリスに黒い感情を抱いていて、ある時母に愚痴った際にくだんの企みを知る。その際にこの子は両手を叩いて喜び、できることがあれば何でもする――手伝うと明言していたのだ。
「な、なにを仰っているんですか? 姉様のことも、お父様とお母様のことも、わたくしのことも。なにかの勘違いですわ」
「いいや、勘違いじゃないよ。だから事細かに言及できる、こんな風にね」
アリスの本当の母親は誰なのか? どんな思いで育ってきたのか? どのタイミングで誰に、どんな目的で売るのか?
マリオンが母から聞かされた内容、そのすべてを伝えた。
「……………………」
「どうだい? これでもまだ、シラを切るのか?」
「……………………どう、して……? お父様もお母様も、お兄様には絶対に教えないと言っていたのに……。漏れるはずも、ないのに……。どうやって知ったんですの……?」
「君が知る必要はないし、そんなことはどうでもいいんだよ。……それよりも、大事なことがある」
限界まで見開かれている目を、直視する。
「アリスは浮気に一切関係がないし、そもそも浮気だって父が断れない状況を作りだして行ったもの。アリスには――アリスの実母にだって、なんの罪もない」
「………………」
「その計画はあまりにも理不尽かつ身勝手で、俺は止めたいと思っていてね。それにはマリオンの協力が必要不可欠なんだ。もう時間がない、手伝ってくれないか?」
マリオンのこれまでの言動は看過できないが、それでも、父母と違って人命を奪ってはいない。ギリギリ、清算して引き返すことはできる。
もし。もしもここでこちらが側につくと言ったら、そのチャンスを設ける。
そんな思いで訴えかけ、そうするとマリオンは――
「…………ごめんなさい、お兄様。邪魔をするのであれば、お兄様にも消えていただきますわ」
――懐に忍ばせてあった、緊急時用のベルを取り出したのだった。
深夜0時を、3分ほど過ぎた頃。俺は今夜2つ目となる扉を叩き、そうすると中から金髪碧眼、だけどツリ目で顎が細く髪の毛に一切の癖がない少女が――。俺よりも母シャンタルの特徴が強く出ている、2歳下の妹であるマリオンが出てきた。
「二人きりでしたい話があってね。中に入っても?」
「もちろんですわ。どうぞ」
マリオンに促されて室内に入り…………この辺りでいいだろう。万が一室外に声が漏れてしまわないよう、窓際に移動して話を始めることにした。
「お兄様がわたくしのお部屋に来てくれるなんて、久しぶりですね。いつぶりでしたっけ?」
「さあ、いつだったかな。随分と前な気がするよ」
「2年? 3年? わたくしも正確に覚えてませんわ」
左へ右へと首を傾げ、マリオンはもう一度左へと首を傾けた。
「こうやって二人っきりでお話しするのも、覚えていないくらい前ですね。どうしたんですか、お兄様?」
「ああうん、本題を話そうか。……俺はね、偶然知ってしまったんだよ」
「偶然、知った? 何をですか?」
「アリスが双子の妹ではないということ。父上と母上が、復讐を兼ねてアリスを売り飛ばそうとしていること。そして――その計画に、マリオンも賛同しているということをだよ」
マリオンは以前からアリスに黒い感情を抱いていて、ある時母に愚痴った際にくだんの企みを知る。その際にこの子は両手を叩いて喜び、できることがあれば何でもする――手伝うと明言していたのだ。
「な、なにを仰っているんですか? 姉様のことも、お父様とお母様のことも、わたくしのことも。なにかの勘違いですわ」
「いいや、勘違いじゃないよ。だから事細かに言及できる、こんな風にね」
アリスの本当の母親は誰なのか? どんな思いで育ってきたのか? どのタイミングで誰に、どんな目的で売るのか?
マリオンが母から聞かされた内容、そのすべてを伝えた。
「……………………」
「どうだい? これでもまだ、シラを切るのか?」
「……………………どう、して……? お父様もお母様も、お兄様には絶対に教えないと言っていたのに……。漏れるはずも、ないのに……。どうやって知ったんですの……?」
「君が知る必要はないし、そんなことはどうでもいいんだよ。……それよりも、大事なことがある」
限界まで見開かれている目を、直視する。
「アリスは浮気に一切関係がないし、そもそも浮気だって父が断れない状況を作りだして行ったもの。アリスには――アリスの実母にだって、なんの罪もない」
「………………」
「その計画はあまりにも理不尽かつ身勝手で、俺は止めたいと思っていてね。それにはマリオンの協力が必要不可欠なんだ。もう時間がない、手伝ってくれないか?」
マリオンのこれまでの言動は看過できないが、それでも、父母と違って人命を奪ってはいない。ギリギリ、清算して引き返すことはできる。
もし。もしもここでこちらが側につくと言ったら、そのチャンスを設ける。
そんな思いで訴えかけ、そうするとマリオンは――
「…………ごめんなさい、お兄様。邪魔をするのであれば、お兄様にも消えていただきますわ」
――懐に忍ばせてあった、緊急時用のベルを取り出したのだった。
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