大切な人のためにできること

柚木ゆず

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第3話 動き出す前に リシャール視点(2)

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「そうですね、浮気に関しては一切関係がない。でもね、アイツはわたくしを散々苦しめてきたんです。経緯はどうであれ、裁かれないといけない人間なんですよ」

 怒りと憎しみが混ざった顔で、マリオンはニッコリと笑った。

「ええそうですね、アレが意図的にわたくしを苦しめているんじゃありません。でも結果として、いつもいつもわたくしは苦しむ羽目になりました。それは罪なこと。故意か否かなんて、関係ないんですよ」
「まりおん――」
「それは違うとでも言いたいのですか? いいえ、これが正しい。だってついうっかり馬車で人を轢いたとして、故意じゃないからという理由で無罪になりますか? なりませんよね? 罪に問われて、相応の罰を受けますよね? そういうことなのですよ」

 この状況で出す例えが、それか。
 分かってはいたことだが……。仕方がない、な。

「事あるごとにあの女のフォローをしていたお兄様は、嫌いでした。けど、小さな頃から優しくしてくれたお兄様は、好きでした」
「………………」
「だから、したくなかった。わたくしだってほら、涙が出るくらい悲しいのですよ?」
「………………」
「でも自由にさせていたら計画が台無しになってしまうし、あとあとどこかで暴露しそうなんですもの。そのお口を塞ぐしかない…………死んでもらうしか、ありません」

 その手にあるベルを鳴らして使用人達を呼び、拘束して殺す。
 それがマリオンが、これからやろうとしていること。

「子爵家の当主だけではなくて、商会の会頭にもなれていたのに……。とんでもない選択ミスをしてしまいましたね、お兄様」
「………………」
「選択ミスといえば、大失敗はもうひとつありました。1年前のアレ――ピアノのコンクールが終わったあとの出来事、覚えていますか?」
「ああ、覚えているよ」

 アリスが銀賞を受賞し、マリオンが銅賞を受賞した日の夜のこと。マリオンは『自分の方が上手く弾けたのにおかしい!』と号泣し、そのせいで父と母は『よくも泣かせたな』と激怒しだした。

 成績が芳しければ怒鳴られ、成績がよければ怒鳴られる。

 どうやっても苦痛しかやって来ない。
 あんな滅茶苦茶な出来事、忘れられるはずがない。

「……あの時お兄様はアイツを懸命に庇って、逆にわたくしを怖い顔で怒りましたよね? あそこでわたくしの味方をしていたら、見逃してあげたかもしれないのに……。お兄様もたいがい、空気が読めませんよね」
「そっか。そうだね、もうそれでいいよ」

 もはや、反論する価値もない。頷きを返すと、マリオンは若干イラっとしながら、ベルを掲げた。

「もう少し最期のお話しをしたかったのですが、明日は――もう今日でしたわね。今日は一日中多忙となりますから、この辺で終わりにしましょう」
「鳴らして呼ぶんだね? ……でも、どうだろう。鳴らしても来てくれるかな?」

 ちょうどの時間だ。それどころではなくなりそうだよ?

「精一杯の強がり、見せてもらいましたわ。ではお兄様、さよならのベルを――んなっ!?」

 見せつけるように思い切り鳴らそうとした、その直後だった。突然――



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