大切な人のためにできること

第１０話 シャンタルとピエールに起きた異変 俯瞰視点（３）

「よくも騙したわね！！　裏切ったわね！？　今日までえええええええええええええええええええええええええええ！！」

　別の女に迫っていた怒り。自分を一番だと思っていなかった怒り。自分の悪口を繰り返していた怒り。
　それらの怒りは絶叫とビンタに姿を変え、ピエールの鼓膜と耳を激しく襲いました。

「こっちは想っていたのにぃいいいいいいいいい！！　信じていたのにいいいいいいいいいいいいいいいいいいい！！」
「すっ、すまないっ。すまないっ。やっ、やめてくれえ！　やめてくれええ！」
「よくもよくもよくもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお！！　あああああああああぁああああ！！　なんでぇよぉ！！　こんなことってえええええええええ！！　なんでわたくしばっかりぃっ！！　わたくしばっかりっ、辛い目に遭わないといけないのよぉおおおおおおおおおぶば！？」
「…………わたくしばっかり、だと……？」

　ぷつん。
　その一言で、ピエールの態度が１８０度変わりました。

「なにが辛い目だ！！　辛い目に遭ってるのはこっちでっ、お前は辛い思いなんてなんにもしていないだろうがああああああああああ！！」

　我慢を強いられ続けたことへの怒り。シャンタルだけ幸せに毎日を過ごしていたことへの怒り。
　ピエールもこれまでの怒りを絶叫と暴力に変え、シャンタルの左頬に平手打ちが突き刺さりました。

「お前はいいよなあ！！　立場が上だから自由に振る舞えて！！　こっちはなあっ、好みじゃない上に性格が終わっている女の相手をしないといけないんだぞ！？　一生なあっ！　誰だって嫌になる！！　浮気は当然の権利だ！！　文句を言われる筋合いなどまったくないぐぶ！？」
「こんなに愛してもらって辛いですって！？　こんな美人な女性を見てっ、好みじゃないですってえ！？　どこまで贅沢なのよぎゃ！？」
「どこが美人だ！！　ミア―ネットと比べたら――他の女と比べてもそれ以下だ！！　どんなに頑張っても７０点だろうが！！　お前の目は腐っているのか！？　お前の目にはどう映っているのだぶ！？」
「お前の見る目がないだけよ！！　アンタの好みがブスなだけでしょう！！　ミアーネットぉ！？　あんなのと比べるまでもないわ！！　圧倒的にわたくしが上！！　雲の上よこっちはねえ！！　誰に聞いてもぶ！？」
「面と向かって否定したら大問題になるだろう！！　いい年をしてそんなことも分からないのか！？　ああそうかっ、分からんよなぁ！！　私と何の関係もない女を目の敵にして睨みつけるくらいだからなあ！！　そんな頭すらないごば！？」
「開き直るなあああああ！！　お前は！！　黙って詫びていればいいのよ！！　反論するな！！　大人しくしろ！！　じっとしてろおおおおおおおおおぎゃ！？」
「全部こっちの台詞だぁあああ！！　詫びろ詫びろ詫びろ！！　今日までの出来事すべてを謝れえええええええ！！　気が済むまで殴らせろおおおおおおおおおおおおぐふ！？」

　このように『キレた』２人は真紅のマネキンこと怨霊を無視して争い始め、怨霊は意図的に放置。それによりシャンタルとピエールは１１分間も争うこととなり、その結果――

「………………く、そ、が…………」
「はぁ、はぁ、はぁ。生意気、なのよ……！！」

　――シャンタルが勝利。髪も顔もボロボロになりながらもニヤリと笑いますが、彼女はすっかり忘れてしまっていました。
　この場には、怨霊がいることを。