見える私と聞こえる転校生

柚木ゆず

文字の大きさ
16 / 45

第7話 土曜日 真鈴視点(2)

しおりを挟む
「そういえば市川さんは、来栖市(くるすし)は初めてなんですよね?」
「そうだよ。写真ではちょこっと見たことがあって、実際に行くのは初めてだね」

 小学4年生の頃に県外から今の家に引っ越してきて、登校とか必要な時以外は家から出なかった。隣接していても言ったことがないところだらけで、なんなら市内にも通ったことのない道が大量にあるのです。

「せっかくですし、色々と紹介しながら向かいますね。まず駅の前にあるのが、『鳩噴水(はとふんすい)』です」
「これ、有名なやつだよね? ネットで見て気になってたんだ」

 噴水の周りに鳩のオブジェが12羽あって、確か12時と18時に鳩の鳴き声が出るようになっている。SNSとかの動画でしか見たことがなくって、まさか自分の目で見る時が来るとは思わなかった。

「ちょっとした観光スポットになってますね。現在鳩の声が出るスピーカーが故障中で、来月には復活するそうです」
「あらら、残念。また来てよってことかな?」
「そうかもしれませんね。生で聞くと、格別な雰囲気がある――と言っていますが、僕もこの場で聞いたことがないんですけどね」
「そうなんだ。水前寺くんって、この市の生まれ?」
「はい、この市で生まれ育ちました。12時と18時にこの近くを通る機会がなくて、まだ一度も聞けていないんですよ」
「あるあるだよね。ウチの父が来栖市内の大学に4年間通ってて、在学中一回も聞いたことがないって言ってたもん」

 そんな話をしながら駅から見て北方向に進んでいって、5分ぐらい歩いたら現れた交差点を右に曲がる。

「あそこにあるケーキ店は、モンブランがとても有名なんです。隣の市はもちろん県外からも、モンブランを求めてお客さんが来るそうですよ」
「あっ、そのお店も知ってるよ。父が買ってきてくれたことがあって、滅茶苦茶美味しかった」

 私は甘いものが大好きで、時間がある時はお仕事帰りに買ってきてくれる。ココ『アンティーク』のモンブランは糸のようなきめ細かいマロンクリームが特徴で、口に入れるとふわっと溶けるんだよね。

「本当に美味しいですよね。あちらにあるレストランは、オムライスが絶品な隠れた名店なんですよ」
「あのお店は知らないや。へぇ~、母に教えてあげないと」

 そこのお店は上手く隠れていたせいか、オムライス大好き人間のお母さんも知らない。今度のお休みに友達と行ってきたら? って言ってみよう。

「是非、教えてあげてください。他にも、この辺りには美味しいお店があって――」

 大福のお店やクレープのお店、ハンバーガーショップやお蕎麦屋さんなどなど。メジャーなお店だけじゃなくって来栖市民のみが知るマイナーなお店もたくさん教えてもらって、

「着きました。こちらです」

 目的地の公園に着く頃には、おかげでかなり詳しくなりました。


「食べ物の話題は一旦忘れて、集中しないとだ。……どんな幽霊がいるのかな?」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

処理中です...