見える私と聞こえる転校生

柚木ゆず

文字の大きさ
15 / 45

第7話 土曜日 真鈴視点(1)

しおりを挟む
「おはようございます。今日はよろしくお願い致します」
「おはよ、水前寺くん。今日はよろしくお願いします」

 午前9時ちょうど。私達は駅で待ち合わせをして、水前寺くんが住んでいた場所へと向かう電車に乗った。

「へぇ、電車の中ってこんな感じなんだ。映像で見てたのと雰囲気がちょっと違う」
「……市川さんは、初めてなんですね。体質の影響ですよね?」
「正解」(線路の上を走る乗り物は、厄介なのがいる時が多いんだよ)

 色々あるから、なんだろうね。恐ろしい姿をした幽霊が乗っている場合が多くって、幼い頃にホームでとんでもないのを目撃してから、そういう乗り物には近づかないようにしていたのです。

「今日はね、そういうのを理解した上で乗るって決めてる。私が望んでいるのです」

 この人って、すぐ申し訳なく思ってくれちゃう。罪悪感が出てくる前に首を振っておいた。

「それにほら、水前寺くんもヤバそうな声は聞こえてないでしょ? この電車には滅茶苦茶危険なのはいなくって、平気だよ」
「そ、そうですね。よくいるタイプはいません」

 よくいる。やっぱり、今でも多いんだ。
 出会えない出会いに感謝です。

「私のこと心配してくれてるけど、声が聞こえるのも辛いでしょ? 電車は混んでてあんまり動けないし、それなりに数もいるし」

 1、2、3体。この車両の中にも、ちょっとだけ化け物味があるのがいる。
 近くで色々聞こえてくるのは、きつそう。

「そうですね、休みなく耳に入ってくるので疲れます。そこで電車などに乗る時は、音楽を聴くようにしているんですよ」
「なるほどね。ナイスアイディア」

 大音量で流しておけば、周りで何を言ってても聞こえない。のんびり乗れるね。

「そういう時って、どんな曲を聴いてるの? 市川くんがどんなのを聴くのか興味あるな」

 ベンチでアイスを食べた時に知った新情報、好きなテレビ番組は時代劇と落語と相撲。おじいちゃんと同じ趣味をしている彼が、何を選んでるのか気になる。

「昭和の歌謡曲です。この曲が一番好きなのですが、御存じですか?」
「…………ご存じではありませんねー」

 しぶい声の人が、しぶーい曲調でしぶく歌ってた。
 タイトルを聞いてもピンとこなくって、帰ってお母さんかお父さんに聞いてみようと思いました。

「この曲は、故郷への思いを歌った歌なんです。……目を瞑ると、青森の光景が浮かんできませんか?」
「う、うーん。どうかなぁ?」
「僕には、津軽平野が見えます。素晴らしい歌詞、メロディー、この土地出身の歌手、以上の三要素が揃って生まれた奇跡の一曲だと思っています。この曲に出会えずに生きていたと思うと、恐ろしくて仕方がありませんよ」

 新情報その2、この人は趣味の話題になるとお喋りが加速する。
 普段落ち着いてるからめっちゃ意外で、初めてこの状態になった時はビックリした。

「僕自身カラオケでもよく歌うのですが、足元にも及びません。十年――いいえ、二十年三十年、一生かかっても納得できる仕上がりにはならないでしょうね。それほどまでに、奥深い曲なんです」
「そ、そうなんだ」
「スルメ、ありますよね? まさにアレです。噛めば噛むほど味が出てきて、ますます好きになってしまう。この曲を教えてくれた祖母には心から感謝をしていて――あ、すみません。つい喋りすぎてしまいました」

 電車が止まって到着に気付き、水前寺くんが頬を掻いた。

「んーん、楽しそうな水前寺くんを見れたからいいよ。さ、行こ」
「は、はいっ」

 電車を降りて改札口を潜って駅から出て、水前寺くんの案内が始まる。
 この街にいる幽霊は、2体。どんな幽霊がいるんだろう……?

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

処理中です...