婚約破棄をされたら、お兄様に溺愛されていたと気付きました

柚木ゆず

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裏側エピソードその1 10年前 シャルルが動き出した日

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 アンリエットが家族となった日の翌日、日曜日。シャルルは友人と遊ぶと偽り、街のはずれにある土木現場に行きました。
 ここを訪れた目的は、日雇いの労働をするため。7歳の子供かつ素性を伏せたまま働ける仕事が、これしかなかったのです。

「ああ、お前が新入りのシャリオか。昨日親方に聞いてはいたが、ほんとに子供が来るとはな」
「どうしてもお金が必要で、本日よりお世話になることになりました。これから土日、平日は夕方以降、よろしく願いいたします」
「おう。給料が発生する以上、子供も大人も関係ねえ。ビシバシ扱き使うから覚悟しておけよ」

 そうしてシャルルは作業着に着替え、準備体操を済ませるとすぐ仕事に取り掛かります。
 彼に与えられたものは、材料などの運搬。技能を一切持たない子供ができることは、これくらいしかないのです。

「こいつを、むこうまで運んでくれ。最低でも1度に20キロ、袋を2つは持ってくようにな」
「分かりました。……つぅっ」

 シャルルは下級とはいえ貴族の次期当主として育てられていたため、体よりも頭を動かす作業が殆どでした。そのため力作業に慣れてはおらず――そもそも子供故に慣れているはずがなく、ふらふら、ふらふら。どうにか2つ担いで動きだしたものの、そのスピードはとても遅い。他の作業員の、半分程度の速度しか出ていません。

「くぅ……。50メートル先が、遠い……」
「こら新入りっ! おせぇ(遅い)ぞ!! 早く持ってこい!!」
「のろのろしてると、給料はなしだぞっ! さっさとしやがれ!」
「は、はいっ……っ。すぐ、行きます……っ」

 シャルルは歯を食いしばって懸命に進み、どうにか到着。はぁと息を吐いて――吐き終わる頃には、次の指示が飛んできます。
 今日二つ目の仕事も、もちろん運搬。シャルルは駆け足で今来た道を戻り、再び20キロを担ぎ、ふらふら、よろよろ。さっきの疲れがあるため、のろかった前回よりも更に速度が落ちてしまいます。

「おいっ、さっきよりも遅くなってんぞ!! もうへばったのかっ?」
「まだ十分も経ってねえぞっ! 働けねえなら帰れ!!」
「す、すみません、働けます……っ。急いで、行きます……っ」

 大量の汗を流しながら前進をして、どうにか荷物を届ける。けれどやっぱり休める暇などなく、その後もその繰り返し。
 この日シャルルは似た動作を何十回も繰り返し、夕方――仕事の終了と同時に、その場に倒れ込んでしまいました。

「はぁ、はぁ、はぁ……。やっと、終わった……」

 身体は汗まみれ。手足はしきりに震えて、力は入らない。
 地面に大の字になっているシャルルは安堵の息を吐き、それを終えると唇を強く噛み締めます。

(分かっていたことだけど、情けない、な。これが、今の俺の実力か……)

 全力を出し切っても周囲の半分程度の仕事しかできず、子供故に足元を見られて8時間働いても4000Aしか稼げない。
 こんな調子では、10年経っても『力』は手に入らない。

(今日から体を鍛えて、資金を蓄えつつ……。大きく稼ぐ方法を、考えないといけないな……)

 忸怩たるものが込み上げてきますが、後ろを向いている暇などない。
 来(きた)る日に備えるため。アンリエットを守るため、シャルルは四肢に鞭を打って立ち上がる。そして現場にあった重りを借りて自宅へと戻り、かつて両親もやっていた投資の資料を読みつつ筋力トレーニングに励むのでした――。

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