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プロローグ 表の顔と裏の顔 俯瞰視点(1)
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「…………チッ」
「…………チッ」
太陽が燦燦と輝く快晴の下を走る、二頭立ての馬車。その内部では二人の男性が、忌々しげに舌を打ち鳴らしていました。
彼らはベルザックス伯爵家の当主ジェス46歳と、その嫡男のカシアス19歳。
二人がこのような状態になっている理由は、前日の早朝に届いた手紙――ミーヴェル子爵家から届いた、一通の手紙にありました。
――極めて重要なお話があります――。
――明日の正午に必ずお越しいただきたい――。
嫡男カシアスは今から半年前にミーヴェル家の令嬢アマリアと婚約を結んでおり、両家の間には親密な繋がりが生まれていました。とはいえそのあまりに強気な態度に、両者は立腹していたのです。
「ウチは指折りの歴史があって、あっちは下から数えた方が早い新興貴族! しかもこっちは伯爵家であっちは子爵家だ! おかしいだろう!?」
「まったくだ!! 何もかもが劣っているというのに……!! ふざけている!! どうしようもない奴らだ!!」
「ミーヴェル子爵邸に着いたら文句を言ってやりましょう!! アマリアと卿にはしっかりと頭を下げさせましょう!!」
「勿論だ!! ちゃんとした謝罪をしない限り許しはしない!! あちらがしっかりと謝るまで口は聞かんぞ!!」
カシアスとジェスは以降も怒りを露わにし、その後は暴言を連発。車内にいる護衛が顔を歪める程に口汚く罵り、そうしていると目的地であるミーヴェル邸に到着しました。
「…………父上、行きましょう」
「…………うむ。行こう、カシアス」
二人は静かに頷きあって馬車を降り、いつもとは異なり車までやって来ない――エントランスで待っている、当主ジョゼフとアマリアのもとへと移動。そうして怒りを生んだ『原因』の前に着くと、
「やあアマリア、会えて嬉しいよ! よかったらこれを受け取って欲しい」
「こうしてお会いするのは半月ぶりですかな。ミーヴェル卿、よろしければこちらを受け取ってくだされ」
二人は顔を綻ばせ、カシアスは薔薇の花束を、ジェスは領地で採れた瑞々しいブドウを丁寧に差し出しました。
――あんなことを言っていた彼らの態度が、まるで違う理由――。
それは、実際は二人の方が圧倒的に立場が弱いから。
確かにミーヴェル家は歴史が浅く格下の子爵家ではあるものの、非常に有名かつ大きな商会を所有。商業による功績によって授爵した過去を持つほどに、その道では圧倒的な地位と影響力を持つ家でした。
そして――。
ミーヴェル家は『ベルザックス伯爵家の豊かな領地』を目当てとし、ベルザックス家は表向きは『ミーヴェル家の金銭的な支援』を、裏では『商会上層部への加入』『ゆくゆくは私物化』をたくらみ、婚約を結んでいました。
ですので反感を買って婚約を取り消すなどされてしまっては困るため、二人は決して強くは出られません。馬車内での発言は、コソコソと行う憂さ晴らしに過ぎなかったのです。
「…………チッ」
太陽が燦燦と輝く快晴の下を走る、二頭立ての馬車。その内部では二人の男性が、忌々しげに舌を打ち鳴らしていました。
彼らはベルザックス伯爵家の当主ジェス46歳と、その嫡男のカシアス19歳。
二人がこのような状態になっている理由は、前日の早朝に届いた手紙――ミーヴェル子爵家から届いた、一通の手紙にありました。
――極めて重要なお話があります――。
――明日の正午に必ずお越しいただきたい――。
嫡男カシアスは今から半年前にミーヴェル家の令嬢アマリアと婚約を結んでおり、両家の間には親密な繋がりが生まれていました。とはいえそのあまりに強気な態度に、両者は立腹していたのです。
「ウチは指折りの歴史があって、あっちは下から数えた方が早い新興貴族! しかもこっちは伯爵家であっちは子爵家だ! おかしいだろう!?」
「まったくだ!! 何もかもが劣っているというのに……!! ふざけている!! どうしようもない奴らだ!!」
「ミーヴェル子爵邸に着いたら文句を言ってやりましょう!! アマリアと卿にはしっかりと頭を下げさせましょう!!」
「勿論だ!! ちゃんとした謝罪をしない限り許しはしない!! あちらがしっかりと謝るまで口は聞かんぞ!!」
カシアスとジェスは以降も怒りを露わにし、その後は暴言を連発。車内にいる護衛が顔を歪める程に口汚く罵り、そうしていると目的地であるミーヴェル邸に到着しました。
「…………父上、行きましょう」
「…………うむ。行こう、カシアス」
二人は静かに頷きあって馬車を降り、いつもとは異なり車までやって来ない――エントランスで待っている、当主ジョゼフとアマリアのもとへと移動。そうして怒りを生んだ『原因』の前に着くと、
「やあアマリア、会えて嬉しいよ! よかったらこれを受け取って欲しい」
「こうしてお会いするのは半月ぶりですかな。ミーヴェル卿、よろしければこちらを受け取ってくだされ」
二人は顔を綻ばせ、カシアスは薔薇の花束を、ジェスは領地で採れた瑞々しいブドウを丁寧に差し出しました。
――あんなことを言っていた彼らの態度が、まるで違う理由――。
それは、実際は二人の方が圧倒的に立場が弱いから。
確かにミーヴェル家は歴史が浅く格下の子爵家ではあるものの、非常に有名かつ大きな商会を所有。商業による功績によって授爵した過去を持つほどに、その道では圧倒的な地位と影響力を持つ家でした。
そして――。
ミーヴェル家は『ベルザックス伯爵家の豊かな領地』を目当てとし、ベルザックス家は表向きは『ミーヴェル家の金銭的な支援』を、裏では『商会上層部への加入』『ゆくゆくは私物化』をたくらみ、婚約を結んでいました。
ですので反感を買って婚約を取り消すなどされてしまっては困るため、二人は決して強くは出られません。馬車内での発言は、コソコソと行う憂さ晴らしに過ぎなかったのです。
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※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
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