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第8話 いない理由 アレクシア視点
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「お嬢様、お待たせいたしました。準備が整いました」
ボスコ様とクララ様の一件から2日後、その日の午後5時を十数分ほど回った頃。静かなノックのあと、中サイズのバッグを二つ携えたカタリナが部屋に来てくれた。
「ありがとう。嫌な仕事を任せてしまったわね」
「いいえ、罪悪感などは微塵もございませんよ。なにせ、人相手の行為ではございませんので」
「そう言ってもらえると、助かるわ。……じゃあ、行きましょうか」
お礼を告げたあと向かって右にあるバッグを受け取り、ゆっくりと部屋を出る。そうして廊下に出たわたし達は静まり返った廊下を通り、エントランスを目指してゆく。
「出歩きを禁じられている時間にわたしが歩いていても、誰も飛んでこないなんて。そっくりな別な場所に居るみたいだわ」
普段なら大問題となり、強制的に戻されるのに今日はされない。いつもは何人もの使用人がいるのに、今日は一度も出会わない。そうなっている理由は、全員が眠ってしまっているから。
唯一自由に動けるカタリナがみんなが飲むお茶に睡眠薬を入れてくれたので、自由な移動が実現しているのよね。
「……このお屋敷にいるのは、指示に乗じて鬱憤を晴らそうとする愚者ばかり。仕掛ける際は睡眠薬ではなく、毒を混ぜたいと思いました」
使用人達もわたしをストレス発散の捌け口にしていて、全員に嫌な思い出がある。この人だけはずっと変わらない味方であり『姉』で、ずっと不満を抱えてくれていたのよね。
「何から何まで、いつも想ってくれてありがとう。かたり――…………」
「??? お嬢様? どうなさいましたか?」
「わたしはもうすぐ今の名を捨てて、お屋敷の人間ではなくなるでしょう? 主従関係もなくなるのだから、言い直そうと思っていたの」
わたし達はこれから辻馬車の乗り合い所に行き、何回か乗り継いでおよそ200キロ離れた『フィナックス村』を――その村にあるカタリナの親族が経営する農園を目指して、そこで二人一緒に住み込みで働くようになっている。
このお屋敷、三人のもとに居続けたら悲惨な未来が待っているから、脱出する。
それがわたし達の計画で、先方ともやり取りをして、受け入れてくださるようになっているのよね。
「わたし達はもう長女とその侍女ではなくて、姉と妹。だから――今までずっとありがとう、カタリナ姉さん。これからもよろしくね」
「…………はいっ。分かりまし――ええ分かったわ、アレクシア。これからもよろしくね」
お屋敷を出て、門を潜った瞬間――フェルア家の敷地から出た瞬間にわたしは手を伸ばし、そうしたら少し照れながらも握り返してくれた。
「ふふっ、そう呼んでもらえて嬉しいわ。じゃあ、初めての姉妹旅のスタートね」
「そうね。のんびり旅をしつつ一緒に行きましょう、わたくし達の新しい家に」
お互いにそうしていたいから、手を繋いだまま歩き出す。
そうしてわたしはこの日すべてを捨て去り、平民アレクシアとして新たな一歩を踏み出したのでした。表向きの方便ではなく、本当に、大切で大好きな家族と一緒に――。
〇〇
「そういえばアレクシア、出発前にデスクに何か置いていたわよね? あれはなんだったの?」
「三人へのお礼よ。……ふふ。元お父様とお母様とキアラは、きっと喜んでくれると思うわ」
ボスコ様とクララ様の一件から2日後、その日の午後5時を十数分ほど回った頃。静かなノックのあと、中サイズのバッグを二つ携えたカタリナが部屋に来てくれた。
「ありがとう。嫌な仕事を任せてしまったわね」
「いいえ、罪悪感などは微塵もございませんよ。なにせ、人相手の行為ではございませんので」
「そう言ってもらえると、助かるわ。……じゃあ、行きましょうか」
お礼を告げたあと向かって右にあるバッグを受け取り、ゆっくりと部屋を出る。そうして廊下に出たわたし達は静まり返った廊下を通り、エントランスを目指してゆく。
「出歩きを禁じられている時間にわたしが歩いていても、誰も飛んでこないなんて。そっくりな別な場所に居るみたいだわ」
普段なら大問題となり、強制的に戻されるのに今日はされない。いつもは何人もの使用人がいるのに、今日は一度も出会わない。そうなっている理由は、全員が眠ってしまっているから。
唯一自由に動けるカタリナがみんなが飲むお茶に睡眠薬を入れてくれたので、自由な移動が実現しているのよね。
「……このお屋敷にいるのは、指示に乗じて鬱憤を晴らそうとする愚者ばかり。仕掛ける際は睡眠薬ではなく、毒を混ぜたいと思いました」
使用人達もわたしをストレス発散の捌け口にしていて、全員に嫌な思い出がある。この人だけはずっと変わらない味方であり『姉』で、ずっと不満を抱えてくれていたのよね。
「何から何まで、いつも想ってくれてありがとう。かたり――…………」
「??? お嬢様? どうなさいましたか?」
「わたしはもうすぐ今の名を捨てて、お屋敷の人間ではなくなるでしょう? 主従関係もなくなるのだから、言い直そうと思っていたの」
わたし達はこれから辻馬車の乗り合い所に行き、何回か乗り継いでおよそ200キロ離れた『フィナックス村』を――その村にあるカタリナの親族が経営する農園を目指して、そこで二人一緒に住み込みで働くようになっている。
このお屋敷、三人のもとに居続けたら悲惨な未来が待っているから、脱出する。
それがわたし達の計画で、先方ともやり取りをして、受け入れてくださるようになっているのよね。
「わたし達はもう長女とその侍女ではなくて、姉と妹。だから――今までずっとありがとう、カタリナ姉さん。これからもよろしくね」
「…………はいっ。分かりまし――ええ分かったわ、アレクシア。これからもよろしくね」
お屋敷を出て、門を潜った瞬間――フェルア家の敷地から出た瞬間にわたしは手を伸ばし、そうしたら少し照れながらも握り返してくれた。
「ふふっ、そう呼んでもらえて嬉しいわ。じゃあ、初めての姉妹旅のスタートね」
「そうね。のんびり旅をしつつ一緒に行きましょう、わたくし達の新しい家に」
お互いにそうしていたいから、手を繋いだまま歩き出す。
そうしてわたしはこの日すべてを捨て去り、平民アレクシアとして新たな一歩を踏み出したのでした。表向きの方便ではなく、本当に、大切で大好きな家族と一緒に――。
〇〇
「そういえばアレクシア、出発前にデスクに何か置いていたわよね? あれはなんだったの?」
「三人へのお礼よ。……ふふ。元お父様とお母様とキアラは、きっと喜んでくれると思うわ」
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