悪役令嬢だったわたしは

柚木ゆず

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第5話 不思議な出来事 ジョゼット視点(5)

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「そういえば、わたしがこの森を訪れた理由をお伝えしていませんでしたね。実は今日の正午に、この場所にいないといけないような気がしていたんです」

 楽しいお喋りを、30分ほど行った頃でした。話の流れで言及していなかったことに気が付き、ベルナール様には真実をお伝えしました。

「昨日の夜から急にそう思うようになりまして、その理由が気になり訪れていたんです。しかも不思議なことに一度も立ち入っていないこの森の内部を何となく理解できて、どう進めばココに来れるかが分かってもいました」
「……そうでしたか……。ジョゼット様も、そうだったのですね」
「え……? もしかして……」
「ええ、僕もそうなのですよ。ラズエルア様がいらっしゃったため隠していましたが、同じような理由でこの森に来ていました」

 人と会うお約束があったのは、事実。しかしながらその途中で『この場所に向かわないといけない』と強く思うようになり、その方はお知り合いだったこともあり、切り上げていらっしゃっていました。

「そうして訪れてみたら、貴方様とラズエルア様がいらっしゃった。もしやおふたり――或いはどちらかと関係があるのではと考え、お二人の傍で様子を見るようにしたのです」
「だから、だったのですね」

 普段とは違う行動を取られていた。その謎が解けました。

「ラズエルア様とは偶然お会いしたと、仰っていましたよね? 昨夜からの違和感と、関係はありそうな気配はございましたか?」
「正午ピッタリにいらっしゃっていて、その点は気になりました。ですがアリシア様は嘘を吐けない方でして、隠し事はされていないと判断しました」

 デビュタントの時から存じ上げていますし、お茶会などを通じて何度も間近でお人柄を見てきました。あの方は貴族界では稀有な裏表がない御人で、あの言葉にも嘘はないと断言できます。

「貴方様が仰るのでしたら、そうなのでしょう。でしたら、正午には何も起きていない……。ならばなぜ、その時間なのでしょうね……?」
「……アリシア様が、いらっしゃったから……? その場にわたし以外の――ハルトーラオ家の人間以外がいた影響で、発生するはずの出来事が発生しなかったのでしょうか……?」
「あり得ますね。であるなら、人……? 誰かが接触しようとしていた……? いやしかし、人が他者の精神に干渉できるとは思えない……」
「です、よね。人が無理なら、人ではない――人ではない……。幽霊……?」

 わたしは知らない間に、何者かに憑かれていました。あの日出ていった『何か』が呼び寄せて、また憑りつこうとしていた……?

「いえ、でも……。幽霊が手招きをしていたのならアリシア様の存在は関係ないでしょうし、仮に関係していたのならアリシア様が去った直後に再び憑依されています。おそらく、違うのでしょうね……」
「ラズエルア様が去る、こちらを見越し僕を呼び寄せ護れるようにした……? いいや、それも違う。僕に霊をどうこうできる力があるなら、これまでお会いした際に苦しむなどしているはずだ……」
「はい。わたくしだった頃の記憶は残っていますが、ベルナール様を警戒してはいませんでした。アリシア様に関しても、そういった感情は抱いておりませんでした」
「ですよね。じゃあ…………いったい、なんなんだ……?」

 わたし達はその後も原因を追究しましたが、残念ながらいくら考えても好転することはありませんでした。ですのでわたし達は思案をやめ、解明は半ば諦めつつ森を出たのですが――


 それから4日後。あまりにも意外な形で、一連の謎が解けることになるのでした。
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