悪役令嬢だったわたしは

柚木ゆず

文字の大きさ
16 / 41

第6話 急変 ジョゼット視点(1)

しおりを挟む
「ごきげんよう、ジョゼット様。引き続き、お変わりありませんか?」
「ごきげんよう、ベルナール様。はい。あれから違和感度はございません」

 今日はお互いにお家の用事やレッスンなどがなく、ウチのお屋敷でお会いできる日。ベルナール様は馬車を降りるや、わたしの心身を案じてくださりました。

「何かありましたらすぐご連絡ください。いつであろうとも飛んでまいります。そう仰っていただけて、『何か』が怯んでいるのだと思いますよ」
「なるほど。ではこれからもドンドンと、怯ませていかないといけませんね」

 そんなやり取りをしながらわたし達は移動を行い、ガーデンテーブルへと移動します。
 今日はとても天気が良く、気持ちの良い風も吹いています。せっかくの好条件を楽しまないのは勿体ないので、こちらで過ごします。

「まだまだ未熟でして、お口に合うか分かりませんが……。フィナンシェを用意させていただきました。よろしければお召し上がりください」
「口に……。こちらは、ジョゼット様が作ってくださったのですか?」
「は、はい。密かに練習しておりました」

 お互いの好物を伝え合った際に、ベルナール様のお好きなものの一つがフィナンシェでした。少しでも多く来訪を楽しんでいただけるように、空いた時間を使ってシェフに教えてもらっていたんです。

「僕のために…………感謝します。ありがたくいただきますね」

 シェフや家族以外に食べていただくのは初めてで、緊張します。
 い、いかがでしょうか……? 気に入っていただけるでしょうか……?

「…………しっとりしていて、口の中に柔らかな食感と優しい甘さが広がりました。美味しいです。とても」
「よかった……!」

 練習はしっかりとしましたし、レシピはシェフ自慢のものを使用しています。
 それでも、好みは千差万別。お口に合わない可能性はあって、本心の笑顔が浮かんでホッとしました。

「……想いを込めて作ってくださったのが、よく分かります。僕は幸せ者ですね」
「ベルナール様……」
「もう一ついただいてもよろしいですか? もっとお味、お気持ちを感じたいと思っています」
「是非っ、お好きなだけ召し上がってくださいっ。紅茶のお代わりも、いつでもおっしゃってくださ――えっ?」
「ジョゼット、お前に来客だ。なにやら緊急とのことで、そのまま来ていただいた」
「突然の来訪、そしてお邪魔をお許しください」

 お父様のお隣でそう仰ったのは、ヴァサロット男爵令嬢モニカ様。あの日『わたくし』が操ろうとしていた、あの方です。

「……ジョゼット様、僕は席を外していますね」
「お待ちください! ルルトス様にもお聞きいただきたくございます!」
「僕も、ですか? 承知しました」

 わたしはベルナール様と視線を交わして頷き合い、揃って正面にあるブラウンの瞳を見つめました。
 一秒でも早く伝えたい、ベルナール様も一緒に聞いて欲しいもの。それは――


「アリシア様が――アリシア・ラズエルア様が……。ジョゼット様の陥れを画策されているのですっ!」


 ――…………。
 わたしもベルナール様も、おもわず言葉を失ってしまうものでした。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました

きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。

透明な貴方

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。  私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。  ククルス公爵家の一人娘。  父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。  複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。 (カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

処理中です...