25 / 41
第10話 アリシア・ラズエルア アリシア視点(2)
しおりを挟む
((間違いないわ。あたしは、アリシア・ラズエルアになってる))
あたしがまだ、日本に居たころ――18歳の伯爵令嬢でなくて、25歳の会社員・佐伯美花(さえきみはな)だった頃。嵌まっていたオムニバス形式の乙女ゲーム、『神が見守る5人の令嬢』の主人公のひとりになっていると気が付いた。
((……そっか。そういえばあたし、死んでしまったのよね…))
あの日は、ぶりっ子で男に色目を使う尻軽――なのに上司に受けが良い上に新プロジェクトまで任されることになった、職場のクソ女にイライラしていて……。限界まで酒を飲んでしまい、そのせいで階段を踏み外して意識を失った――恐らく、頭を打ったせいで死んでしまったのだ。
((あたしは、アイツのせいで死んじゃったのね……!! 殺してやりたいくらい腹が立つ、けどまぁ許してあげるわ。現実より遥かに良い世界に来れたんだもの))
あたしは、この作品のヒーロー――攻略対象のひとりであるベルナール・ルルトス様が最推しで、『アリシア編』の主人公であるアリシアは最終的にベルナール様と結ばれる。
最愛の方と恋人になり夫婦になれるのだから、こみ上げていた怒りはすぅっと引っ込んだ。
((不満しかない前世のことは忘れて、現世に集中しましょう))
ベルナール様と結ばれるにはグッドエンドもしくはトゥルーエンドに行く必要があって、バッドエンドに進んでしまったら結ばれずに終わってしまう。良い未来に進むためにはその条件を満たす選択肢を取っていかないといけなくって、その日から慎重に毎日を過ごし始めたのだった。
「ごきげんよう、グエン様。お会いできる時を楽しみにしておりました」((今日は婚約者と夕方まで過ごして、でも、ディナーは誘わない。……よし、順調ね))
「はい、そうなのですジョゼット様。マリーナ公爵令嬢リンナ様が気に入ってくださりまして、白薔薇の会のお茶会に参加させていただけることとなりました」((ここで、しっかりとジョゼットのヘイトを稼ぐ……))
「ごきげんよう、ルルトス様」((ああもう、せっかく最推しが目の前にいらっしゃるのに……!! 我慢しないといけないだなんて……!!))
アリシア編は他のストーリーに比べると良いエンドへの生き方が複雑で、まず現婚約者グエンが不祥事を起こしてしまう。その一報を引き金にジョゼットの不祥事発覚事件が同時に進み始めて、ほぼ同じタイミングで二人の婚約が解消となって――その後『フリー』となった二人は偶然サロットロール湖で出会い、そこから仲が発展してゆくことになる。
ただしそこにも厄介な点があって、グエンの不祥事が発覚する前にジョゼットがアリシアへの陥れを――モニカへの脅迫を行っていないといけない。そのためにはグエンの関係を維持しつつジョゼットのヘイトを溜め、最低でも2回ベルナール様と接触していないといけない。
だから常に先の先まで展開を考えながら詰将棋をするような日々を送り、その努力の甲斐あって、条件はすべて達成。あとは全ての基点となる、『グエンの浮気』の噂が届くのを待つだけ、となったのだけど――
「いつになったら来るのよ!? 何をやってるの!? 早くしなさいよ!!」
――グエンに浮気の気配がある、というニュースが入って来なかった。
とはいえあたしはトゥルーエンドに行った時と同じ行動を取っていて、確実にトゥルーに向けて進んでいる。だから次に起こるイベント――『ショックを受けてサロットロール湖に行ったら、ジョゼットの怪しい動きを知って落胆しているベルナール様と出会う』はちゃんと発生すると思って、ゲーム内でイベントが発生するタイミングに合わせて現地に向かった。
((…………あり、えない。ありえないわ……。なんでっ、あたしのもとにいらっしゃらないのっ!? ベルナール様ぁ!!))
だけどまた予想外が起きてしまい、ずっと悩んでいた。上手くいった時の行動を100パーセント再現しているのにイベントが発生しないから、頭が痛くなるほど考えた。
それでもなにも分からなくって、気が滅入っていたのだけど――。ひょんなことから、理由が判明したのだった。
あたしがまだ、日本に居たころ――18歳の伯爵令嬢でなくて、25歳の会社員・佐伯美花(さえきみはな)だった頃。嵌まっていたオムニバス形式の乙女ゲーム、『神が見守る5人の令嬢』の主人公のひとりになっていると気が付いた。
((……そっか。そういえばあたし、死んでしまったのよね…))
あの日は、ぶりっ子で男に色目を使う尻軽――なのに上司に受けが良い上に新プロジェクトまで任されることになった、職場のクソ女にイライラしていて……。限界まで酒を飲んでしまい、そのせいで階段を踏み外して意識を失った――恐らく、頭を打ったせいで死んでしまったのだ。
((あたしは、アイツのせいで死んじゃったのね……!! 殺してやりたいくらい腹が立つ、けどまぁ許してあげるわ。現実より遥かに良い世界に来れたんだもの))
あたしは、この作品のヒーロー――攻略対象のひとりであるベルナール・ルルトス様が最推しで、『アリシア編』の主人公であるアリシアは最終的にベルナール様と結ばれる。
最愛の方と恋人になり夫婦になれるのだから、こみ上げていた怒りはすぅっと引っ込んだ。
((不満しかない前世のことは忘れて、現世に集中しましょう))
ベルナール様と結ばれるにはグッドエンドもしくはトゥルーエンドに行く必要があって、バッドエンドに進んでしまったら結ばれずに終わってしまう。良い未来に進むためにはその条件を満たす選択肢を取っていかないといけなくって、その日から慎重に毎日を過ごし始めたのだった。
「ごきげんよう、グエン様。お会いできる時を楽しみにしておりました」((今日は婚約者と夕方まで過ごして、でも、ディナーは誘わない。……よし、順調ね))
「はい、そうなのですジョゼット様。マリーナ公爵令嬢リンナ様が気に入ってくださりまして、白薔薇の会のお茶会に参加させていただけることとなりました」((ここで、しっかりとジョゼットのヘイトを稼ぐ……))
「ごきげんよう、ルルトス様」((ああもう、せっかく最推しが目の前にいらっしゃるのに……!! 我慢しないといけないだなんて……!!))
アリシア編は他のストーリーに比べると良いエンドへの生き方が複雑で、まず現婚約者グエンが不祥事を起こしてしまう。その一報を引き金にジョゼットの不祥事発覚事件が同時に進み始めて、ほぼ同じタイミングで二人の婚約が解消となって――その後『フリー』となった二人は偶然サロットロール湖で出会い、そこから仲が発展してゆくことになる。
ただしそこにも厄介な点があって、グエンの不祥事が発覚する前にジョゼットがアリシアへの陥れを――モニカへの脅迫を行っていないといけない。そのためにはグエンの関係を維持しつつジョゼットのヘイトを溜め、最低でも2回ベルナール様と接触していないといけない。
だから常に先の先まで展開を考えながら詰将棋をするような日々を送り、その努力の甲斐あって、条件はすべて達成。あとは全ての基点となる、『グエンの浮気』の噂が届くのを待つだけ、となったのだけど――
「いつになったら来るのよ!? 何をやってるの!? 早くしなさいよ!!」
――グエンに浮気の気配がある、というニュースが入って来なかった。
とはいえあたしはトゥルーエンドに行った時と同じ行動を取っていて、確実にトゥルーに向けて進んでいる。だから次に起こるイベント――『ショックを受けてサロットロール湖に行ったら、ジョゼットの怪しい動きを知って落胆しているベルナール様と出会う』はちゃんと発生すると思って、ゲーム内でイベントが発生するタイミングに合わせて現地に向かった。
((…………あり、えない。ありえないわ……。なんでっ、あたしのもとにいらっしゃらないのっ!? ベルナール様ぁ!!))
だけどまた予想外が起きてしまい、ずっと悩んでいた。上手くいった時の行動を100パーセント再現しているのにイベントが発生しないから、頭が痛くなるほど考えた。
それでもなにも分からなくって、気が滅入っていたのだけど――。ひょんなことから、理由が判明したのだった。
21
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢は婚約破棄されたら自由になりました
きゅちゃん
ファンタジー
王子に婚約破棄されたセラフィーナは、前世の記憶を取り戻し、自分がゲーム世界の悪役令嬢になっていると気づく。破滅を避けるため辺境領地へ帰還すると、そこで待ち受けるのは財政難と魔物の脅威...。高純度の魔石を発見したセラフィーナは、商売で領地を立て直し始める。しかし王都から冤罪で訴えられる危機に陥るが...悪役令嬢が自由を手に入れ、新しい人生を切り開く物語。
透明な貴方
ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
政略結婚の両親は、私が生まれてから離縁した。
私の名は、マーシャ・フャルム・ククルス。
ククルス公爵家の一人娘。
父ククルス公爵は仕事人間で、殆ど家には帰って来ない。母は既に年下の伯爵と再婚し、伯爵夫人として暮らしているらしい。
複雑な環境で育つマーシャの家庭には、秘密があった。
(カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています)
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします
タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。
悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる