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プロローグ(1)
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「清香ちゃん、こうやって会うのは久しぶりだね。今日はね、とっても良いお話があるんだよ――ってちょっとぉ! なんで嫌そうな顔をするのさ~!」
落ち着いた雰囲気のあるお洒落なカフェに、氷上美郷(ひかみみさと)先輩の大声が響き渡る。
最後に会ったのはお互い夏休みの時だから、およそ7か月ぶり。大学時代から慕っている人と再会したのに早々にげんなりしたのは、この人から出たとある言葉が原因なのです。
『今日はね、とっても良いお話があるんだよ。ちょっと遠くなんだけど、激安激ウマな隠れ家的お店を見つけたんだ~!』
『今日はね、とっても良いお話があるんだよ。モニターってことで高級エステを無料で受けられるようになってね、ひとり追加OKだから一緒にいこうよ~!』
などなど。『今日はね、とっても良いお話があるんだよ』と出されたお誘いに乗った結果、今まで100パーセントの確率で面倒なことになっているのです。
「先輩の車に乗って山の中を2時間近く走り回って、ようやく着いたと思ったら滅茶苦茶マズいし高いし高圧的な店主で雰囲気最悪だった。エステについて行ったら悪徳なお店で、隙をみて大急ぎで逃げ出す羽目になった。先輩がそういう風に言って来た時は、決まって大変な目に遭うんですよ」
「え? そ、そうだったけ?」
「そうですよ」
キョトンとして目を丸くする美郷先輩。
すごいよね。この人ってこれなのに去年から県庁勤務で、県民の大事な書類を取り扱っているんだから。
「ま、まあ過去はさておき! 今回は絶対に安全な良いお話だよ! なにせこれは、上司――県庁が関係しているんだからね」
「……た、たしかに。それなら、安全、かもですね」
県庁、つまり『県』。県なら隠れ家的なお店みたいなことにはならないし、エステみたいなことにもならないよね。
「そうそう、ホントに安全なんだよ。……ところでちょっと話は変わるけど、清香ちゃんは就職先が見つからなくて困ってるんだってね?」
「ちょっとどころじゃないくらい変わりましたね。ええ、困っているところです」
ウチの実家は4代続く個人経営のレストランで、来月になったら――大学卒業後は地元に戻り、次期経営者として手伝っていく予定だった。ただ先々月の終わりにウチの店がSNSで人気となり、状況が変わってしまう。
お客様が殺到したおかげで人手不足となり、県外のレストランで副料理長を務めていた薫(かおる)兄さんが急遽戻り2人目のシェフとなって、一緒に戻ってきた遥(はるか)義姉さんも母と一緒にお店の経営をすることになった。
薫兄さんは元々独立を計画していたし、遥義姉さんはオーナーとして独立後に薫兄さんを支えるつもりだった。そんな2人が実家にいるなら2人に任せた方が店が上手くいくと思い、戻らないという選択をしたのです。
『結果的に、俺らが清ちゃんの未来を変えてしまった。そのお詫びとして、特別顧問的な立場を用意しようと思っているんだよ。別に何もしなくてよくて、毎月お給料を振り込ませてもらうだけだよ』
『薫くんが言うように私達が戻ってきたことでそうなっちゃったんだし、そもそもお店が大人気になったのは清香ちゃんのおかげだもの。そのくらいするべきよ』
『売り上げが何倍にもなった、その功労者だもんな。清ちゃん、どうかな?』
薫兄さんは昔からビックリするくらいわたしに甘くて、遥義姉さんも初めて会った時からわたしをやけに気に入ってくれている。だからそんな風に言ってくれたのだけど、この歳になっておんぶにだっこじゃいけない。
自分の面倒は自分で見るために、あまりにも遅すぎるタイミングで就職先を探しているのです。
「そっかそっか。じゃあ、もう一つ質問をさせてね」
「質問ですか? ど、どうぞ」
「清香ちゃんってさ、あの頃から変わってないのかな? 今も幽霊とかあやかしとかUFOとかを、肯定も否定もしてないのかな?」
「そう、ですね。どちらもしていません」
わたしは幼い頃から、『自分の目で見たものしか信じない』タイプ。22年の人生で存在を肯定する出来事も否定する出来事もなくて、完全な中立状態にいる。
「??? 急にどうしたんですか?」
ひとつ目はともかく、ふたつ目はまったく意味が分からない。
先輩は、何をしたいんだろ……?
落ち着いた雰囲気のあるお洒落なカフェに、氷上美郷(ひかみみさと)先輩の大声が響き渡る。
最後に会ったのはお互い夏休みの時だから、およそ7か月ぶり。大学時代から慕っている人と再会したのに早々にげんなりしたのは、この人から出たとある言葉が原因なのです。
『今日はね、とっても良いお話があるんだよ。ちょっと遠くなんだけど、激安激ウマな隠れ家的お店を見つけたんだ~!』
『今日はね、とっても良いお話があるんだよ。モニターってことで高級エステを無料で受けられるようになってね、ひとり追加OKだから一緒にいこうよ~!』
などなど。『今日はね、とっても良いお話があるんだよ』と出されたお誘いに乗った結果、今まで100パーセントの確率で面倒なことになっているのです。
「先輩の車に乗って山の中を2時間近く走り回って、ようやく着いたと思ったら滅茶苦茶マズいし高いし高圧的な店主で雰囲気最悪だった。エステについて行ったら悪徳なお店で、隙をみて大急ぎで逃げ出す羽目になった。先輩がそういう風に言って来た時は、決まって大変な目に遭うんですよ」
「え? そ、そうだったけ?」
「そうですよ」
キョトンとして目を丸くする美郷先輩。
すごいよね。この人ってこれなのに去年から県庁勤務で、県民の大事な書類を取り扱っているんだから。
「ま、まあ過去はさておき! 今回は絶対に安全な良いお話だよ! なにせこれは、上司――県庁が関係しているんだからね」
「……た、たしかに。それなら、安全、かもですね」
県庁、つまり『県』。県なら隠れ家的なお店みたいなことにはならないし、エステみたいなことにもならないよね。
「そうそう、ホントに安全なんだよ。……ところでちょっと話は変わるけど、清香ちゃんは就職先が見つからなくて困ってるんだってね?」
「ちょっとどころじゃないくらい変わりましたね。ええ、困っているところです」
ウチの実家は4代続く個人経営のレストランで、来月になったら――大学卒業後は地元に戻り、次期経営者として手伝っていく予定だった。ただ先々月の終わりにウチの店がSNSで人気となり、状況が変わってしまう。
お客様が殺到したおかげで人手不足となり、県外のレストランで副料理長を務めていた薫(かおる)兄さんが急遽戻り2人目のシェフとなって、一緒に戻ってきた遥(はるか)義姉さんも母と一緒にお店の経営をすることになった。
薫兄さんは元々独立を計画していたし、遥義姉さんはオーナーとして独立後に薫兄さんを支えるつもりだった。そんな2人が実家にいるなら2人に任せた方が店が上手くいくと思い、戻らないという選択をしたのです。
『結果的に、俺らが清ちゃんの未来を変えてしまった。そのお詫びとして、特別顧問的な立場を用意しようと思っているんだよ。別に何もしなくてよくて、毎月お給料を振り込ませてもらうだけだよ』
『薫くんが言うように私達が戻ってきたことでそうなっちゃったんだし、そもそもお店が大人気になったのは清香ちゃんのおかげだもの。そのくらいするべきよ』
『売り上げが何倍にもなった、その功労者だもんな。清ちゃん、どうかな?』
薫兄さんは昔からビックリするくらいわたしに甘くて、遥義姉さんも初めて会った時からわたしをやけに気に入ってくれている。だからそんな風に言ってくれたのだけど、この歳になっておんぶにだっこじゃいけない。
自分の面倒は自分で見るために、あまりにも遅すぎるタイミングで就職先を探しているのです。
「そっかそっか。じゃあ、もう一つ質問をさせてね」
「質問ですか? ど、どうぞ」
「清香ちゃんってさ、あの頃から変わってないのかな? 今も幽霊とかあやかしとかUFOとかを、肯定も否定もしてないのかな?」
「そう、ですね。どちらもしていません」
わたしは幼い頃から、『自分の目で見たものしか信じない』タイプ。22年の人生で存在を肯定する出来事も否定する出来事もなくて、完全な中立状態にいる。
「??? 急にどうしたんですか?」
ひとつ目はともかく、ふたつ目はまったく意味が分からない。
先輩は、何をしたいんだろ……?
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