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プロローグ ベルティーユ視点
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((はぁ。早く終わらないかしら……))
折角の休日の午後。本来なら自室で、趣味に没頭していた――読書をしていたはずの私は、応接室で呆れ果てていた。
ずっと読みたかった本をじっくり読める。そう思っていたのに、こんなことになってしまった理由。それは――目の前にいる、ヤテリネ子爵家のレリア。すっかり疎遠になっていた、幼馴染にある。
「ベルティーユ、こうして会うのは3年ぶりかしらっ。ねえ、聞いてくださいましっ。わたくし一昨日、隣国の次期侯爵様と婚約しましたのっ!」
この人が久し振りにやって来た理由は、私に会うため――ではなくって、自慢をするため。
婚約者はエーズテルド侯爵家の嫡男、レイモン様なんですの――。エーズテルド家は大きな商会を持っていて、なんとレイモン様はそこの次期会頭でもあるんですの――。多くの領民の上だけではなく、多くの精鋭の上に立つ御方なんですのよ――。などなど。こういったことを次々喋り始めて…………でも、それだけならまだマシだった。
「あらまあ、ベルティーユも隣国の方と婚約をしていたの!? 3日前に!? まあまあっ。どなたとなさったのかしらっ? いつお知り合いになったのっ?」
「アドレルザ侯爵家の、シリル様よ。1年と数か月前に、お父様が『サンデルク商会』――アドレルザ家の商会と取り引きを始めて、それがご縁で知り合ったの」
状況が『面倒くさい』から『最悪』になったのは、これが切っ掛け。私の婚約者様の情報を得たレリアは……
「まあまあ。わたくし達はどちらも、侯爵家の次期当主様と婚約を結んでいましたのねっ。そっくりで――あら? あらあらぁ? けれどよく考えてみたら、決定的に違っている部分がありましたわねぇ」
サンデルク商会より、自分の婚約者の商会の方が規模が大きい。同じ侯爵家でも財力は大きく差があって、だからエンゲージリングには最高品質のダイヤモンドが2カラットも使用されている。
貴方のものも立派なようだけれど、わたくしのリングがあれば霞んでしまいますわねっ。おほほほほほほほほほ――。などなど。相手が他の令嬢なら大問題に発展してしまう内容を、平然と言い放ち始めたの……。
「お屋敷も豪華で、どのくらい広いかといいますとねぇ。え~とぉ。ここレビックス子爵邸の3倍はありますのよっ。おほほほほほほほほっ」
「そ、そうなのね。すごいわね」((はぁ。早く、終わらないかしら……))
出来ることなら今すぐ話を終わらせて、さっさと読書を始めたい。でも私達のお父様同士が学院時代の友人で、今はお庭で――思い出のある場所でお茶をしながら、久しぶりの再会を楽しんでいる。
そのため追い返すこともできなくて、こんな話を聞き続ける羽目になる。そうして更に10分ほど、我慢をしていた――その時だった。レリアが口にした言葉によって、私はあることに気が付いてしまうのだった。
「あらあら。そういえばうっかり、名前を出し忘れていましたわ。レイモン様の商会は、きっと貴方も知っていると思いますわよぉ。……その名は、『ルナレーズ商会』。ここ数年で急成長を遂げ、サンデルク商会をあっという間に追い抜いてしまった、今大注目となっている組織ですのよぉ」
……ルナレーズ商会。その名前と噂は、耳にしたことがある。
だけど、それは――
折角の休日の午後。本来なら自室で、趣味に没頭していた――読書をしていたはずの私は、応接室で呆れ果てていた。
ずっと読みたかった本をじっくり読める。そう思っていたのに、こんなことになってしまった理由。それは――目の前にいる、ヤテリネ子爵家のレリア。すっかり疎遠になっていた、幼馴染にある。
「ベルティーユ、こうして会うのは3年ぶりかしらっ。ねえ、聞いてくださいましっ。わたくし一昨日、隣国の次期侯爵様と婚約しましたのっ!」
この人が久し振りにやって来た理由は、私に会うため――ではなくって、自慢をするため。
婚約者はエーズテルド侯爵家の嫡男、レイモン様なんですの――。エーズテルド家は大きな商会を持っていて、なんとレイモン様はそこの次期会頭でもあるんですの――。多くの領民の上だけではなく、多くの精鋭の上に立つ御方なんですのよ――。などなど。こういったことを次々喋り始めて…………でも、それだけならまだマシだった。
「あらまあ、ベルティーユも隣国の方と婚約をしていたの!? 3日前に!? まあまあっ。どなたとなさったのかしらっ? いつお知り合いになったのっ?」
「アドレルザ侯爵家の、シリル様よ。1年と数か月前に、お父様が『サンデルク商会』――アドレルザ家の商会と取り引きを始めて、それがご縁で知り合ったの」
状況が『面倒くさい』から『最悪』になったのは、これが切っ掛け。私の婚約者様の情報を得たレリアは……
「まあまあ。わたくし達はどちらも、侯爵家の次期当主様と婚約を結んでいましたのねっ。そっくりで――あら? あらあらぁ? けれどよく考えてみたら、決定的に違っている部分がありましたわねぇ」
サンデルク商会より、自分の婚約者の商会の方が規模が大きい。同じ侯爵家でも財力は大きく差があって、だからエンゲージリングには最高品質のダイヤモンドが2カラットも使用されている。
貴方のものも立派なようだけれど、わたくしのリングがあれば霞んでしまいますわねっ。おほほほほほほほほほ――。などなど。相手が他の令嬢なら大問題に発展してしまう内容を、平然と言い放ち始めたの……。
「お屋敷も豪華で、どのくらい広いかといいますとねぇ。え~とぉ。ここレビックス子爵邸の3倍はありますのよっ。おほほほほほほほほっ」
「そ、そうなのね。すごいわね」((はぁ。早く、終わらないかしら……))
出来ることなら今すぐ話を終わらせて、さっさと読書を始めたい。でも私達のお父様同士が学院時代の友人で、今はお庭で――思い出のある場所でお茶をしながら、久しぶりの再会を楽しんでいる。
そのため追い返すこともできなくて、こんな話を聞き続ける羽目になる。そうして更に10分ほど、我慢をしていた――その時だった。レリアが口にした言葉によって、私はあることに気が付いてしまうのだった。
「あらあら。そういえばうっかり、名前を出し忘れていましたわ。レイモン様の商会は、きっと貴方も知っていると思いますわよぉ。……その名は、『ルナレーズ商会』。ここ数年で急成長を遂げ、サンデルク商会をあっという間に追い抜いてしまった、今大注目となっている組織ですのよぉ」
……ルナレーズ商会。その名前と噂は、耳にしたことがある。
だけど、それは――
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