そんなつもりはなかったのですが……

柚木ゆず

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第7話 勘違いの果てに ブランシュ視点(2)

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「「「むー! むー! むー!」」」
「ブランシュ様、お久しぶりでございます。忌々しき罪人どもを連れて参りました」
「…………へ? 罪人? なにを言ってるの……?」

 これ以上、頭をこんがらせないで欲しい。
 わたしの姿を目にするやボドワンが車内で片膝を付き、恭しくこうべを垂れた。

「レーヌ、ブレーズ、ドゥニーズ。この者達は貴方様を陥れた張本人。実を言いますとわたくしは、あの件とは一切無関係。それどころかこの者達の所業を快く思っておりませんでした」
「……は、はあ……」
「故に水面下で動き続け、すでにご存じだと思いますが、その努力が実って当主の座から引き摺り下ろすことができました。……わたくしは、当主の座に相応しくない。その資質を備えてはおりませぬ!!」
「は、はあ……」
「故に、ブランシュ様にお返ししようと思っておりました。できることなら即座に行動したかったのですが、諸事情で……。どうしようもない出来事に対処する必要がございまして!! 今日になってしまったのでございます!」

 終盤声が裏返りながら、やけに声を張り上げて喋って――。

「「「むー! むー! むー!」」」

 縛られている3人をチラッと見てみると、必死になって首をブンブン振っていた。
 ……レーヌ達のその反応と、ボドワンのこの反応……。
 ボドワンの性格性質を鑑みると、レーヌ達を売って保身を図っているみたいなんだけど――。今のわたしは、ただのパン屋よ? なんで、こんなにも切羽詰まるほどに恐れているのかしら?

((……もしも、わたしの知らない『大きな何か』があるのであれば……。のちのち、オーブリーにも迷惑がかかるかもしれないわね))

 詳細を把握しておく必要がある。その様子だと素直に吐くとは思えないし、探りを入れてみましょうか。

「ですので、どうぞこの者達を――」
「ねえ叔父様。本当の目的はなに?」
「な、なにを仰いますか! すべてほんとう――」
「叔父様の性格をよく知っているわたくしが、騙されるはずないでしょう? ……運がいいわね? 今日はとっても良いことがあって、ご機嫌がすこぶる良いの。正直に理由を明かしたのなら、悪いようにはしないわよ?」

 ここは、強気かつ上から目線でガンガン行くべき。わたしは人差し指をクイクイ動かしてボドワンを椅子に座らせ、ぐいっと顔を近づけて両目を見据えた。

「わたくし、貴方の口から聞きたいの。何があって、何を思って、こうしたの? 酷い目に遭いたくなかったら、正直に吐きなさい」
「……………………」
「従わないのなら、バッドエンド一直線よ。いいのね? それで?」
「!! 申し訳ございません!! 他意がございました!! 包み隠さずお話しいたしますっっ!!」

 やはり相当に分が悪いと思っているようで、あっさりと観念した。ボドワンは涙を浮かべ、時折吐き出しながら、これまでの経緯を喋っていって――

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