婚約者が愛していたのは、わたしじゃない方の幼馴染でした

柚木ゆず

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第5話 真に愛する人と結ばれるために シメオン視点

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「………………ぐ……。マズイ……。マズイぞ……」

 7月3日の午後10時過ぎ。今日の日付を示すカレンダーと時計を見ながら、俺は自室のデスクで頭を抱えていた。

 現在決まってしまっているヴァネッサとの婚約を白紙にして、新たにヨランドと婚約できるようにする。

 そのための作戦が、まったく浮かばないのだ……。

「ダメだ……! いくら考えても、父上の頭の中が読めない……っ! どうなっているんだ……!?」

 俺が無能だから、婚約解消&再婚約のアイディアが出ないのではない。
 あの状況下で、なぜヴァネッサを選んだのか? 最前提となる部分が謎だから、対策の練りようがないんだ……。

「俺が愛していると繰り返していた、ヴァネッサ……。父上が、わざわざアイツを選ぶ意図はなんなんだ……?」

 愛を強調しているにもかかわらず選ぶからには、何かしらのメリットが――ヨランドと婚約を結ばせる以上の、『プラス』が存在しているはず。その正体は、なんなんだ……?

「……最初にレーアリア家と繋がっていた方が、もっともウチに得がある……? …………そんなはずはない。サレティス家と繋がった場合でも、その後に大差ないはずだ」

 それにそもそも、あの婚約はおじさん達も――三家の当主全員が、同意している。
 一家だけが得をする、一家だけが損をする。そんな選択はしない。

「だとしたら……。いや、それは違う……。そいつは……そいつは、もっと違う……。……………………くそっ……!! やっぱり分からないっ!」

 あれこれ予想してみるものの、どれもあり得ないと結論が出てしまう。
 だから……。おもわず本人に確認してみたくなるが、そんな真似できるはずがない。
 そんなことをしてしまったら、あとあと怪しまれてしまう危険性がある……! 今はいいかもしれないが、のちに最悪の事態に陥りかねない……!!

「くそ……っ。くそ……!! どうしたらいいんだ……!? このままではヨランドが悲しんでしまう……!!」

 彼女は俺以上に婚約を望んでいて、婚約が実現しなかったら絶望してしまう。最悪、自ら命を絶ってしまいかねない。

「それは、絶対に防がないといけないことだ……!!」

 地獄のような未来、最愛の人の悲劇を回避するために……! 煙が出そうになっている頭を、懸命に働かせ続けて――

 それから2日後の、7月5日。タイムリミットまであと2日となった日。

 そんな場合じゃないが、付き合いで仕方なく参加した夜会で――。
 俺の状況は、一変することになるのだった。
 もちろん、良い方向に……!!



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