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第8話 苦しみ~予想外~ シメオン視点(1)
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((ぐう……。ぐうぅ……))
まさか、ここまでダメージを受けてしまうだなんて。想像以上、だった……。
『ヨランドの悪口を言う』
共通の目的を果すためとはいえ、ヨランドを傷付ける言葉を吐くのは辛い。たとえ作戦を成功させるためとはいえ、シメオンに悪口を言われるのは辛い。
二種類の痛みは、俺の心を相当えぐるだろうと覚悟していた。
しては、いたが……。
((ぐぁぁ……! 痛い……!!))
いざ始まってみると、やってくる痛みの量は予想を遥かに凌駕していた。
魂を裂かれているような激痛が常にやって来て、吐きそうになる。その場で転げ回りたくなる。
((も、もう嫌だ……。これ以上は耐えられない……。や、止めたい……))
今すぐヨランドに謝って、二人だけでゆっくり時間を過ごして、お互いの傷を癒し合いたくなる。
だが……。
((そうしてしまうと……。作戦は、失敗してしまう))
好きでもない幼馴染と婚約する羽目になり、俺にとってもヨランドにとっても、地獄のような人生が始まってしまう。
((そんな未来は、認めない……! あっていいはずがない……!!))
だから……。俺は、心の中で顔を歪めながら続けていく。
「さっき、ヨランドは負けず嫌いって話をしただろ? あれなんだけど、他にも負けず嫌いを感じた――ヨランドに嫌気がさしてしまう出来事があったんだよ」
「あれは、11歳の頃だったな。とある伯爵令嬢とトランプをしていて負けた時に、顔はニコニコしてるんだけど目が怒りで満ちてたんだよな」
「これは『負けず嫌いが少々過ぎる』にも通じるんだが、たまたま相手が気付かなかったからよかったものの……。伯爵家のご機嫌を損ねたら大変で、内心ヒヤヒヤした思い出がある。いや~。ヨランドはあの頃から問題児だったんだなぁ」
ぐあぁぁぁぁぁぁ……!! おもわずうめき声が出そうなる激痛に襲われ、俺は懸命にその痛みを堪え、そうしながら――黒目だけを動かし、ヴァネッサとパトリスを見る。
((お前達、出番だ……! ヨランドをフォローしろ……!!))
誰かが否定や擁護するなどすれば、ヨランドのショックは多少薄まる。俺の苦しみも、多少楽になるんだ……!
((さすがに、これ以上は限界だから……。そろそろ、口を挟め……!!))
心の中で激しい量の念を送っていると、おぉ! パトリスが「兄さん」と口を開いた。
((パトリス……! お前は人一倍心の痛みに敏感だろ! 弱っている者の苦しみを熟知していて、攻撃され続けている『姉』を放ってはおけないだろ! さあ、フォローしろ……!!))
心の中で、パンと手を叩く。そうするとパトリスは、再びゆっくりと口を開き――
「確かにそうですね。ヨランド姉さんは、本当に困った問題児です」
――え……?
こいつ……。なにを、言って……?
まさか、ここまでダメージを受けてしまうだなんて。想像以上、だった……。
『ヨランドの悪口を言う』
共通の目的を果すためとはいえ、ヨランドを傷付ける言葉を吐くのは辛い。たとえ作戦を成功させるためとはいえ、シメオンに悪口を言われるのは辛い。
二種類の痛みは、俺の心を相当えぐるだろうと覚悟していた。
しては、いたが……。
((ぐぁぁ……! 痛い……!!))
いざ始まってみると、やってくる痛みの量は予想を遥かに凌駕していた。
魂を裂かれているような激痛が常にやって来て、吐きそうになる。その場で転げ回りたくなる。
((も、もう嫌だ……。これ以上は耐えられない……。や、止めたい……))
今すぐヨランドに謝って、二人だけでゆっくり時間を過ごして、お互いの傷を癒し合いたくなる。
だが……。
((そうしてしまうと……。作戦は、失敗してしまう))
好きでもない幼馴染と婚約する羽目になり、俺にとってもヨランドにとっても、地獄のような人生が始まってしまう。
((そんな未来は、認めない……! あっていいはずがない……!!))
だから……。俺は、心の中で顔を歪めながら続けていく。
「さっき、ヨランドは負けず嫌いって話をしただろ? あれなんだけど、他にも負けず嫌いを感じた――ヨランドに嫌気がさしてしまう出来事があったんだよ」
「あれは、11歳の頃だったな。とある伯爵令嬢とトランプをしていて負けた時に、顔はニコニコしてるんだけど目が怒りで満ちてたんだよな」
「これは『負けず嫌いが少々過ぎる』にも通じるんだが、たまたま相手が気付かなかったからよかったものの……。伯爵家のご機嫌を損ねたら大変で、内心ヒヤヒヤした思い出がある。いや~。ヨランドはあの頃から問題児だったんだなぁ」
ぐあぁぁぁぁぁぁ……!! おもわずうめき声が出そうなる激痛に襲われ、俺は懸命にその痛みを堪え、そうしながら――黒目だけを動かし、ヴァネッサとパトリスを見る。
((お前達、出番だ……! ヨランドをフォローしろ……!!))
誰かが否定や擁護するなどすれば、ヨランドのショックは多少薄まる。俺の苦しみも、多少楽になるんだ……!
((さすがに、これ以上は限界だから……。そろそろ、口を挟め……!!))
心の中で激しい量の念を送っていると、おぉ! パトリスが「兄さん」と口を開いた。
((パトリス……! お前は人一倍心の痛みに敏感だろ! 弱っている者の苦しみを熟知していて、攻撃され続けている『姉』を放ってはおけないだろ! さあ、フォローしろ……!!))
心の中で、パンと手を叩く。そうするとパトリスは、再びゆっくりと口を開き――
「確かにそうですね。ヨランド姉さんは、本当に困った問題児です」
――え……?
こいつ……。なにを、言って……?
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