わたしから婚約者を奪った幼馴染が、顔を真っ赤にして怒鳴り込んで来た

柚木ゆず

文字の大きさ
25 / 43

第12話 模索 俯瞰視点(3)

しおりを挟む
「奥の手……? 奥の手っ!? 方法がありますのっ!? ないって仰ってたのに!? ありますの!?」
「……ああ、あるにはあったのだ。あまりにも大きな犠牲を払う故に、出せなかっただけで……。最初から存在していたのだ……」
「アレ以上に辛いことなんてありませんわ!! 教えてくださいましっ!! どんな方法ですのっ!? なにをどうすれば結婚や同棲を回避できますのっ!?」
「…………レベッカ・ザスワーズは事故で死んでしまった、とする。それがすべてを回避できる方法だ」

 雨の日の移動中に、馬車ごと崖から転落して消息不明になる。これが、ファビアンの中にずっとあった『奥の手』でした。

「あの契約は両者の生存を前提としている。故にどちらかが死ねば意味はないものとなり、残念ながらあちらを殺めることはできそうにもない。そこでお前がこの世を去ったとすることで、すべてを無効化するのだよ」
「………………。そうしたら、確かに白紙にはできますけど……。それは……」
「ああ、そうだ。お前は『レベッカ・ザスワーズ』の名と『日常』を捨てなければならないのだよ」

 実は生きていたとなれば、契約は蘇り結局レベッカは結婚と同棲をしなくてはならなくなってしまう。それを防ぐには、レベッカはレベッカではなくなる必要があったのです。

「恐らくこのタイミングでそんなことになれば、ロバンくんは訝しみ徹底的に調査をするだろう。私を含めた『ザスワーズ家』全体が、執拗にマークされてしまうだろう。……故に、継続的な支援は不可能となる」
「……………………」
「そのためお前は別人の平民に成りすまして単独で、どこかしらの遠い場所で――隣国で、出来る限り静かに暮らさなくてはならない。こういった代償がある故に、思い浮かんでいても言及できなかったのだよ」
「……………………」
「だが……。それでも……。このまま結婚と同棲をするよりは、マシなのだろう……?」

 ファビアンは苦々しい顔をレベッカへと向け、

「……………………ええ。マシ、ですわ……」

 レベッカはファビアンへ向けて、ゆっくりと頷きを返しました。

「平民になるのも異国でヒッソリ過ごすのも、嫌。こんな服を着たりドレスを着たり美味しいものを食べたりパーティーに参加したり…………できなくなるのは、嫌ですわ。それでも、遥かにマシですわ」

 好きでもない相手。違うと言っているにしつこくしてくる相手。そんな人間と夫婦になって、この先ずっと様々なことを共有していかないといけないのはもっと辛い。死んでいるようなもの。
 そういった理由で、奥の手を選びました。

「……分かった。ではその準備を始めよう」

 決行は、様々な点を考慮して一か月後。
 その日に向けてファビアンは仕込みを始め、事故死に見えるルートを決めたり、出来る限り多くの金を持った状態で新たなスタートを切れるように高価な宝石や指輪を購入して持たせたり、治安の良い場所の物件を選んだり。ロバン達に悟られないよう細心の注意を払って懸命に動き、その甲斐あって無事、ロバンとエミルに気付かれることなく下準備が済みました。
 そうしてついに、決行の時が訪れて――


しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

あなたの幸せを、心からお祈りしています【宮廷音楽家の娘の逆転劇】

たくわん
恋愛
「平民の娘ごときが、騎士の妻になれると思ったのか」 宮廷音楽家の娘リディアは、愛を誓い合った騎士エドゥアルトから、一方的に婚約破棄を告げられる。理由は「身分違い」。彼が選んだのは、爵位と持参金を持つ貴族令嬢だった。 傷ついた心を抱えながらも、リディアは決意する。 「音楽の道で、誰にも見下されない存在になってみせる」 革新的な合奏曲の創作、宮廷初の「音楽会」の開催、そして若き隣国王子との出会い——。 才能と努力だけを武器に、リディアは宮廷音楽界の頂点へと駆け上がっていく。 一方、妻の浪費と実家の圧力に苦しむエドゥアルトは、次第に転落の道を辿り始める。そして彼は気づくのだ。自分が何を失ったのかを。

本当に妹のことを愛しているなら、落ちぶれた彼女に寄り添うべきなのではありませんか?

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアレシアは、婿を迎える立場であった。 しかしある日突然、彼女は婚約者から婚約破棄を告げられる。彼はアレシアの妹と関係を持っており、そちらと婚約しようとしていたのだ。 そのことについて妹を問い詰めると、彼女は伝えてきた。アレシアのことをずっと疎んでおり、婚約者も伯爵家も手に入れようとしていることを。 このまま自分が伯爵家を手に入れる。彼女はそう言いながら、アレシアのことを嘲笑っていた。 しかしながら、彼女達の父親はそれを許さなかった。 妹には伯爵家を背負う資質がないとして、断固として認めなかったのである。 それに反発した妹は、伯爵家から追放されることにになった。 それから間もなくして、元婚約者がアレシアを訪ねてきた。 彼は追放されて落ちぶれた妹のことを心配しており、支援して欲しいと申し出てきたのだ。 だが、アレシアは知っていた。彼も家で立場がなくなり、追い詰められているということを。 そもそも彼は妹にコンタクトすら取っていない。そのことに呆れながら、アレシアは彼を追い返すのであった。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです

天宮有
恋愛
 伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。  それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。  婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。  その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。  これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

聖女の妹、『灰色女』の私

ルーシャオ
恋愛
オールヴァン公爵家令嬢かつ聖女アリシアを妹に持つ『私』は、魔力を持たない『灰色女(グレイッシュ)』として蔑まれていた。醜聞を避けるため仕方なく出席した妹の就任式から早々に帰宅しようとしたところ、道に座り込む老婆を見つける。その老婆は同じ『灰色女』であり、『私』の運命を変える呪文をつぶやいた。 『私』は次第にマナの流れが見えるようになり、知らなかったことをどんどんと知っていく。そして、聖女へ、オールヴァン公爵家へ、この国へ、差別する人々へ——復讐を決意した。 一方で、なぜか縁談の来なかった『私』と結婚したいという王城騎士団副団長アイメルが現れる。拒否できない結婚だと思っていたが、妙にアイメルは親身になってくれる。一体なぜ?

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

甘やかされた欲しがり妹は~私の婚約者を奪おうとした妹が思わぬ展開に!

柚屋志宇
恋愛
「お姉様の婚約者ちょうだい!」欲しがり妹ルビーは、ついにサフィールの婚約者を欲しがった。 サフィールはコランダム子爵家の跡継ぎだったが、妹ルビーを溺愛する両親は、婚約者も跡継ぎの座もサフィールから奪いルビーに与えると言い出した。 サフィールは絶望したが、婚約者アルマンディンの助けでこの問題は国王に奏上され、サフィールとルビーの立場は大きく変わる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 ★2025/11/22:HOTランキング1位ありがとうございます。

処理中です...