わたしから婚約者を奪った幼馴染が、顔を真っ赤にして怒鳴り込んで来た

柚木ゆず

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第15話 遅すぎた決断 俯瞰視点(2)

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「レベッカ。大事な話があるんだ」

 父エミルが屋敷を発ってすぐ――新当主アランを説得して同意を引き出し、書類にサインをさせに行ったあとのことでした。ロバンはレベッカの部屋を訪ね、神妙な面持ちを作りました。

「大事な、お話……? なんでしょうか……?」
「…………………………っっ」
「? ロバン様? 急にどう――ロバン様!?」

 やって来たロバンは唇を噛み始め、まもなく両目からは涙が零れ落ちた。それを見たレベッカは戸惑い、急いで顔を覗き込みました。

「どっ、どうされたのですかっ!? なにがあったのですかっ!?」
「…………………………ごめんよ。自分で決めたことだけど、悲しくて……。つい、様々なものがこみ上げてしまったんだ。……今のは忘れて欲しい」

 ロバンはハンカチで涙を拭い、3回深呼吸。心を整える――お芝居をして、再度目の前にいるレベッカを見つめました。

「……さっきの話を、続けるね」
「は、はい……。大事な、お話……。そちらは、なんなのでしょう……?」
「僕がこれからする、大事なお話。それは、関係の解消に関するものなんだよ」

 時間をかければ愛の力で元通りになると信じている――。けれど一緒に暮らすようになってから、君は心も体もボロボロになってしまった――。こんな姿はもう見てはいられない――。だからもう、我が儘を通すのは止める――。今結んでいる関係をすべて絶ち、君には自由に生きてもらうと決めた――。
 ロバンは真摯な視線を休みなく送り続け、それらがあたかも事実であるかのように語りました。

「……………………」
「不幸中の幸い、当主は変わっている。その影響による撤回だと伝えておけば、評判などのダメージを受けることはない。君はすぐ、これまで通りの日常を取り戻せるんだ」

 徹底的に、レベッカのため、を主張。その後もロバンは本音を隠して『弊害なし』を伝えてゆき、たっぷり三十五分かけて下準備を済ませました。

((……コイツは僕と早く別れたがっているし、ノーダメージだと理解もした。これなら))

 上手くいく。上手くいかないはずがない。
 計画の成功を確信したロバンは内心ほくそ笑み、用意していた書類を差し出しました。

「僕達の関係の解消には、現当主のサインと本人――君のサインが要るんだ。……それが今の僕の願いなのだから、こちらは気にしなくていい。サインをお願いします」

 駄目押しとして穏やかに頬を緩めながら、紙とペンを手渡す。そうすれば渡されたレベッカは、ゆっくりとロバンへと視線をやって――

「お気遣い、痛み入ります。……ですが、その必要はございませんよ。わたくしは貴方様と生涯を共に致しますわ」

 ――予想だにしない返事をしたのでした。


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