5 / 23
第3話 戸惑いと戸惑いと、戸惑い 俯瞰視点(1)
しおりを挟む
「貴方様は何かしらの理由でナタリー様に興味を失くし、わたくしへの興味が戻った。けれど素直に伝えても、当時の関係に戻れはしない。そこで魅了を利用し、時間を巻き戻そうとしていらっしゃるのですよね?」
「ちっ、違う! 事実なんだよ!! ほっ、ほら! これが証拠だ!!」
実はミレヴォラードを中心として、世界各地で魅了絡みの事件が実際に発生していた――ことを、証明する書類。ナタリーが現在、治安局に拘束されている――ことを、証明する書類。
ブノアは激しくかぶりを振りながら、用意していた二つの紙をテーブルに置きました。
「どちらもが、国の公的機関が出しているものなんだ! さしもの侯爵家であっても公的機関は動かせない! これは事実なんだよ!!」
「いいえ、事実ではありませんわ。……『公的機関は動かせない』、わたくしもそう認識していましたが――。少なくともこの国の機関に関しては、それもまた事実ではなかったようですわ」
今のクリスチアーヌには、『魅了はなかった』と言い切れる証拠があります。その前ではブノア達が用意した渾身のアイテムも意味を持たず、ブノアは更に焦る羽目になりました。
「まっ、まってくれクリスチアーヌ! 書類を作成しているのは治安局なんだぞ!? 貴族を束ねる、そんな『国』が関わっている機関なんだぞ!? そんな真似できるはずがないだろう!!」
「たとえば治安局の中に内通者がいるなど、内部で独自に動く――偽装することは可能ですわ。それに、わたくしには――」
「わっ、分かった!! じゃあ別の証拠を用意しよう!! 実は他にも証明できるものがあって、そっちを見てもらえば今度こそ信じてもらえるはずなんだ!! それを持ってくるから待っていてくれ!!」
そのようなものは、存在していません。しかしなぜかクリスチアーヌ達は捏造を確信していて、このままでは目的が達成できなくなってしまいます。
((大丈夫だ。俺達は、歴史も力もある侯爵家様なんだ。考えれば何かしら用意できるっ!))
そのためこうして時間を稼ぎ、大急ぎで新たな策を練ると決めたのでした。
「これらの書類で充分だと思っていたから、置いて来ていたんだよ。明日――しまった! 明日は朝から夜まで多忙だった! なら、明後日か! 明後日には持ってくるから、待っていて欲しい!」
「あ、ああ、そうだな! そうだなブノア! 卿っ、クリスチアーヌ嬢、すまない。少々時間をいただきますぞ!」
ブノアはポンと手のひらを打って時間を更に確保し、親子は足早に退室。冷や汗を垂らしながら応接室を出て廊下を通り、お屋敷を出ます。
そして停めてある馬車を目指し、乗り込もうと――していた時でした。ただでさえ困惑していた彼らを、更に困惑させる出来事が発生してしまったのでした。
「なっ、なんだあの馬車は……!? あんな装飾、見たことがないぞ……!? 異国の馬車がっ、なぜここに入ってくるんだっ!?」
「ちっ、違う! 事実なんだよ!! ほっ、ほら! これが証拠だ!!」
実はミレヴォラードを中心として、世界各地で魅了絡みの事件が実際に発生していた――ことを、証明する書類。ナタリーが現在、治安局に拘束されている――ことを、証明する書類。
ブノアは激しくかぶりを振りながら、用意していた二つの紙をテーブルに置きました。
「どちらもが、国の公的機関が出しているものなんだ! さしもの侯爵家であっても公的機関は動かせない! これは事実なんだよ!!」
「いいえ、事実ではありませんわ。……『公的機関は動かせない』、わたくしもそう認識していましたが――。少なくともこの国の機関に関しては、それもまた事実ではなかったようですわ」
今のクリスチアーヌには、『魅了はなかった』と言い切れる証拠があります。その前ではブノア達が用意した渾身のアイテムも意味を持たず、ブノアは更に焦る羽目になりました。
「まっ、まってくれクリスチアーヌ! 書類を作成しているのは治安局なんだぞ!? 貴族を束ねる、そんな『国』が関わっている機関なんだぞ!? そんな真似できるはずがないだろう!!」
「たとえば治安局の中に内通者がいるなど、内部で独自に動く――偽装することは可能ですわ。それに、わたくしには――」
「わっ、分かった!! じゃあ別の証拠を用意しよう!! 実は他にも証明できるものがあって、そっちを見てもらえば今度こそ信じてもらえるはずなんだ!! それを持ってくるから待っていてくれ!!」
そのようなものは、存在していません。しかしなぜかクリスチアーヌ達は捏造を確信していて、このままでは目的が達成できなくなってしまいます。
((大丈夫だ。俺達は、歴史も力もある侯爵家様なんだ。考えれば何かしら用意できるっ!))
そのためこうして時間を稼ぎ、大急ぎで新たな策を練ると決めたのでした。
「これらの書類で充分だと思っていたから、置いて来ていたんだよ。明日――しまった! 明日は朝から夜まで多忙だった! なら、明後日か! 明後日には持ってくるから、待っていて欲しい!」
「あ、ああ、そうだな! そうだなブノア! 卿っ、クリスチアーヌ嬢、すまない。少々時間をいただきますぞ!」
ブノアはポンと手のひらを打って時間を更に確保し、親子は足早に退室。冷や汗を垂らしながら応接室を出て廊下を通り、お屋敷を出ます。
そして停めてある馬車を目指し、乗り込もうと――していた時でした。ただでさえ困惑していた彼らを、更に困惑させる出来事が発生してしまったのでした。
「なっ、なんだあの馬車は……!? あんな装飾、見たことがないぞ……!? 異国の馬車がっ、なぜここに入ってくるんだっ!?」
23
あなたにおすすめの小説
他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません
天宮有
恋愛
公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。
第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。
その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。
追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。
ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。
私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。
松ノ木るな
恋愛
純真無垢な侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気だと疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。
伴侶と寄り添う幸せな未来を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。
あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。
どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。
たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。
婚約破棄寸前、私に何をお望みですか?
みこと。
恋愛
男爵令嬢マチルダが現れてから、王子ベイジルとセシリアの仲はこじれるばかり。
婚約破棄も時間の問題かと危ぶまれる中、ある日王宮から、公爵家のセシリアに呼び出しがかかる。
なんとベイジルが王家の禁術を用い、過去の自分と精神を入れ替えたという。
(つまり今目の前にいる十八歳の王子の中身は、八歳の、私と仲が良かった頃の殿下?)
ベイジルの真意とは。そしてセシリアとの関係はどうなる?
※他サイトにも掲載しています。
婚約破棄されましたが気にしません
翔王(とわ)
恋愛
夜会に参加していたらいきなり婚約者のクリフ王太子殿下から婚約破棄を宣言される。
「メロディ、貴様とは婚約破棄をする!!!義妹のミルカをいつも虐げてるらしいじゃないか、そんな事性悪な貴様とは婚約破棄だ!!」
「ミルカを次の婚約者とする!!」
突然のことで反論できず、失意のまま帰宅する。
帰宅すると父に呼ばれ、「婚約破棄されたお前を置いておけないから修道院に行け」と言われ、何もかもが嫌になったメロディは父と義母の前で転移魔法で逃亡した。
魔法を使えることを知らなかった父達は慌てるが、どこ行ったかも分からずじまいだった。
【完結】私の事は気にせずに、そのままイチャイチャお続け下さいませ ~私も婚約解消を目指して頑張りますから~
山葵
恋愛
ガルス侯爵家の令嬢である わたくしミモルザには、婚約者がいる。
この国の宰相である父を持つ、リブルート侯爵家嫡男レイライン様。
父同様、優秀…と期待されたが、顔は良いが頭はイマイチだった。
顔が良いから、女性にモテる。
わたくしはと言えば、頭は、まぁ優秀な方になるけれど、顔は中の上位!?
自分に釣り合わないと思っているレイラインは、ミモルザの見ているのを知っていて今日も美しい顔の令嬢とイチャイチャする。
*沢山の方に読んで頂き、ありがとうございます。m(_ _)m
私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる