低級令嬢の庭球物語

柚木ゆず

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第1話 前世の記憶、覚醒(4)

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「こ、これはマズイね……。だったら、僕が寄付を――いや、それは不可能だね……」

 平民から貴族への寄付は、贔屓が起きるなどの可能性があるから禁止されている。あたしが急にお金を使ったらミゲルからの寄付を真っ先に疑われて、その結果ミゲルは牢屋行き確定だ。

「折角、チャンスが出来たのに……っ。どうすればいいんだ……っ?」
「その答えは、簡単よ。テークにいる他の貴族に、ラケットやシューズを寄付してもらえばいいのよ」

 ヒューナとしてのあたしは結構なバカだけど、佐々木茜だったあたしは進学校に通う文武両道娘。その生前の頭脳が、すぐに道を見出した。

「貴族から貴族へのプレゼントは、法律で禁止されていない。だからここを狙えば、あたしは舞台に立てるのよ」
「それは、そうだけど……。他の貴族は道具をくれないと思うよ……? 手を貸しちゃうと最後の対戦相手である『スピン家』の邪魔をする事になって、反感を買ってしまうからね」

 スピン家は現在A級の貴族で、発言権が一番ある。なので他の貴族としては、絶対に目を付けられたくはない。
 普通は、ね。

「……浅慮なヒューナとは思えないくらい、狡猾な顔をしてるね。何を思い付いているんだい?」
「前半に相変わらずのミゲル節をブチ込んできてるけど、まあいいわ。『あたしとテニスで勝負をして、あたしが勝てば道具を一つもらう。あたしが負ければフラット家の全てを譲る』。こういう取り引きを持ちかけるのよ」

 フラット家は腐っても貴族で、この土地の管理権などの『宝物』があるにはある。ソレは他の貴族にとって本来手に入らないはずのものだから、そんな状況でも飛びついてきてくれるのだ。

「できればあたしが勝てば道具を一式欲しいところだけど、全部だとスピン家を恐れて呑んでくれない。ポーカーなどの他の勝負だと、勝てる確率が下がってしまう。落としどころはここなのよね」
「そ、それはそうで、いい作戦には変わりないけど……。一度でも負けたら、何もかも失うんだよ? それでもいいのかい……?」
「もちろんよ。どうせ負けたらクーデターを起こされて、何もかもを失うんだもの」

 どっち道、背水の陣なのだ。敗北した場合は同じ結末になってしまうんだから、滅茶苦茶やった方がいいに決まってる。

「というわけで、今後の方針は決まり。まずは…………一番近くにいる、『ボレー家』を訪ねましょうか」

 この世界にはガスも電気もなくて、連絡手段は手紙のみ。しかもその仕分けは手作業だし乗り物は馬車だけだしで届くまでに時間がかかるから、直接行った方が早いのだ。

「突然の訪問は無礼だけど、非常事態なんだからしょうがないわね。幸い貴族は無料で馬車を使えるから、今から出掛けるわ」
「……やけに活動的で、更に気が強くなったよね……。さっきもそうだけど、ヒューナなのにヒューナじゃないみたいだよ……」
「あたしはヒューナ・フラットであり佐々木茜でもあるんだから、当然よ。ミゲル、悪いけど戸締りをよろしくね」
「待って、ヒューナ。僕もついていくよ」

 部屋を出て支度を始めようとしていたら、右の手を掴まれた。

「僕はフラット家に仕えるコンディショニングトレーナーで、同時にヒューナの兄のようなものだ。大事で大好きな、以前にも増して手間がかかりそうな妹を、放ってはおけないよ」
「……ミゲル……。アンタも前世の記憶が蘇って、ダメな部分が薄まるといいわね」
「えっ?」
「なんでもないわ。どうもありがとうで、それなら一緒に行きましょ。よろしくね、お兄ちゃん」

 あたしの手を掴んでいた大きな手を握り返し、あたし達は頷き合ってから出発。こうしてあたし――ううん。ヒューナ・フラットと佐々木茜、そしてミゲルも支えてくれる戦いが、幕を開けたのだった。
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