低級令嬢の庭球物語

柚木ゆず

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第2話 一つ目の勝負(3)

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「……………………。ヒューナ殿」
「はい? なんでしょうか?」
「………………そなたは確か、運動神経がよくなかったはずじゃ。なのにどうして、勝負はテニスなのじゃ?」
「あたしは一人娘でいずれは代表となるため、ミゲル――彼にも協力してもらい、練習をしていたんです。ねえ、ミゲル」
「そうだね。一生懸命頑張って、上達したね」

 あたしが話を振ったので、ずっと黙っていたミゲルは大きく頷いた。
 貴族同士がいる場での平民の嘘は、実は重罪となる。だから敢えてミゲルが喋って、不信感をなくさせようとしたのだ。
 まあ実際は大嘘で、自然に話せるよう馬車内で練習してもらったんだけどね。

「あたしはトランプなどのカードゲームも苦手で、勝負ならテニスが一番自信がある。そのような理由で、こう提案をしたんです」
「…………なるほどのぅ。ならば――いや、少し待って欲しい。勝負の内容は、こちらが決めてもよいのかの?」
「内容、ですか……? 例えばどのようなもの、なのでしょう?」
「そうじゃのう。ワシとしては『サーブを行い、先に的を倒した方が勝ち』がよいのじゃが、どうかの?」

 試合じゃなくて、早く目的を達成した側が勝者のルールね。
 どうせ、『サーブは精度が重要で、運動音痴のお前はどんなに練習してもワシには勝てんぞ』――。って考えてるんでしょうけど、残念だったわね。
 今のあたしは、全国大会経験者。むしろ体力を使わなくていいサーブ対決の方が、勝ちやすいのだ。

「ワシは昨日試合をしたばかりで、試合は少し飽きてるんじゃよ。こういうゲーム形式でどうかの?」
「こちらはお願いする側なので、最大限努力致します。その内容でお受けしますよ」
「おおそうかそうかっ。では早速じゃが、書類の用意をしよう」

 彼がパンパンと手を叩くと使用人が万年筆とA4サイズの用紙を持って来て、あたし達はそれぞれにサイン。最後に室内にあった朱肉で指紋を捺して、書類の完成となった。

「うむ、これでよいの。それではヒューナ殿、勝負と参ろう。場所は我が家のコートでよいかな?」
「はい、構いません。ただあたしはラケットもシューズも持ち合せがないので、貸していただけますでしょうか?」
「無論、使ってもらって構わない。まずは用具室に案内するとしようかのう」

 テニスをするには、道具が必要。そのため3階にある大きな大きな部屋でラケットとシューズとウェアを借り、3人で裏庭に作られたコートを目指したのだった。
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