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第4話 想定外(2)
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現在地からスライス領は、少しだけ遠い。
まずはお馴染み舗装されていない道を1時間ほど進んで、澄みきった大きな川につくと『渡り船』――地球でいうフェリー的なものに馬車ごと乗って約40分間ゆらゆら移動。そこから更に小さな山を2つ越えれば城塞都市があり、城塞都市内は法律で馬車の移動を禁じられているので、あたしとミゲルはここで下車。降りた後は二人揃って大きな門を潜り、都市の中央に位置するスライス家の邸宅を目指すようになった。
「確かここって、戦争に使ってた壁をそのまま利用してるのよね。高さ15メートルって、想像してたより高いわねえ」
「僕も全く同じ感想で、驚いてるよ。日本という国にも、こんな高いものはあるのかい?」
「非にならないくらい、デカイのがあるわよ。3776メートルの山があったり、634メートルの建物があったりするわ」
テーク最大の山が1239メートルで、最大の建物は12メートル弱。やはり日本――地球は、高い山が大きくって進歩してる。
「そ、それはすごいね……。どちらかにのぼってみた事は、ある?」
「建物の方になら、あるわ。電気で動くエレベーターという乗り物があって、たった数分で上についちゃうのよ」
「へ、へぇ……。景色は、どうだった?」
「自分の住んでる街を見渡せて、感動的だったわ。行こうと言い出した部員は高所恐怖症で、少しも見れずに隣で吐いてたけどね」
肉や魚や果物を売る店が道の両端に並ぶ、大きくて賑々しい市場――テークで最も発展している市場に足を踏み入れながら、左隣に苦笑する。
何事にも興味津々で、苦手なものにも全力で挑戦する女の子。彼女はかなり面白くて、茜が好きな後輩だった。
「あっ、そうそうっ。そういえば! ここは梨が名物で、タルトやジュースが美味しいらしいよ」
「ふーん、そうなんだ。……話の切り替えが不自然。35点よ」
景気の良い声が飛び交う道を歩きながら、左肘でツンと突っ突く。
前世の友人や家族に会えないのは残念だけど、茜な部分もこっちの生活をそれなりに楽しめてる。別に気を遣わなくてもいいっての。
「それよりあたしの方もそういえばで、ほら。耳を澄ませてみて」
「耳を……? なになに……?」
揃って聴覚を集中させてみると、
『あそこにいらっしゃるのって、ヒューナ様よね? フラット家の、長女様のっ』
『ええそうだわっ。そしてお隣にいるのは……』
『幼馴染でフラット家専属トレーナーの、ミゲル・ステップさんよね。揃ってどうされたのかしら?』
『フラット家の御仕事なら、ヒューズ様がいらっしゃるわよね……? もしかしてお二人はお付き合いをされていて、お忍びで旅をされているのかしら……?』
市場の至る所から、そんなヒソヒソ声が聞こえてくる。
「ねえ、ミゲル。あたし達、恋仲だって思われてるわよ」
「うん、そうだね。……ヒューナ」
「ええ。知らないって恐ろしいわね……」
今の当主はヒューナ・フラットで、ウチの領地ではクーデターが起こる寸前で、ここに来たのはウェアを確保するため。
残念ながら、呑気な旅ではない。
『フラット様とミゲルさん、今見つめ合ってたわっ! 絶対にそうよっ!』
『わぁ、いいなぁ。わたしもいつか、そんな旅をしたいなぁ……っ』
「…………ミゲル。あたし達も楽しむためだけに、いつかこの市場に来ましょうね……」
「うん、そうだね。そうできるよう僕も、精一杯サポートをするよ」
「…………ありがと。頼りにしてるわよ、お兄ちゃん」
あたし達はげんなりしつつも、気を取り直して拳と拳をコツン。理想を現実とするべく、都市の中央へと闊歩した。
まずはお馴染み舗装されていない道を1時間ほど進んで、澄みきった大きな川につくと『渡り船』――地球でいうフェリー的なものに馬車ごと乗って約40分間ゆらゆら移動。そこから更に小さな山を2つ越えれば城塞都市があり、城塞都市内は法律で馬車の移動を禁じられているので、あたしとミゲルはここで下車。降りた後は二人揃って大きな門を潜り、都市の中央に位置するスライス家の邸宅を目指すようになった。
「確かここって、戦争に使ってた壁をそのまま利用してるのよね。高さ15メートルって、想像してたより高いわねえ」
「僕も全く同じ感想で、驚いてるよ。日本という国にも、こんな高いものはあるのかい?」
「非にならないくらい、デカイのがあるわよ。3776メートルの山があったり、634メートルの建物があったりするわ」
テーク最大の山が1239メートルで、最大の建物は12メートル弱。やはり日本――地球は、高い山が大きくって進歩してる。
「そ、それはすごいね……。どちらかにのぼってみた事は、ある?」
「建物の方になら、あるわ。電気で動くエレベーターという乗り物があって、たった数分で上についちゃうのよ」
「へ、へぇ……。景色は、どうだった?」
「自分の住んでる街を見渡せて、感動的だったわ。行こうと言い出した部員は高所恐怖症で、少しも見れずに隣で吐いてたけどね」
肉や魚や果物を売る店が道の両端に並ぶ、大きくて賑々しい市場――テークで最も発展している市場に足を踏み入れながら、左隣に苦笑する。
何事にも興味津々で、苦手なものにも全力で挑戦する女の子。彼女はかなり面白くて、茜が好きな後輩だった。
「あっ、そうそうっ。そういえば! ここは梨が名物で、タルトやジュースが美味しいらしいよ」
「ふーん、そうなんだ。……話の切り替えが不自然。35点よ」
景気の良い声が飛び交う道を歩きながら、左肘でツンと突っ突く。
前世の友人や家族に会えないのは残念だけど、茜な部分もこっちの生活をそれなりに楽しめてる。別に気を遣わなくてもいいっての。
「それよりあたしの方もそういえばで、ほら。耳を澄ませてみて」
「耳を……? なになに……?」
揃って聴覚を集中させてみると、
『あそこにいらっしゃるのって、ヒューナ様よね? フラット家の、長女様のっ』
『ええそうだわっ。そしてお隣にいるのは……』
『幼馴染でフラット家専属トレーナーの、ミゲル・ステップさんよね。揃ってどうされたのかしら?』
『フラット家の御仕事なら、ヒューズ様がいらっしゃるわよね……? もしかしてお二人はお付き合いをされていて、お忍びで旅をされているのかしら……?』
市場の至る所から、そんなヒソヒソ声が聞こえてくる。
「ねえ、ミゲル。あたし達、恋仲だって思われてるわよ」
「うん、そうだね。……ヒューナ」
「ええ。知らないって恐ろしいわね……」
今の当主はヒューナ・フラットで、ウチの領地ではクーデターが起こる寸前で、ここに来たのはウェアを確保するため。
残念ながら、呑気な旅ではない。
『フラット様とミゲルさん、今見つめ合ってたわっ! 絶対にそうよっ!』
『わぁ、いいなぁ。わたしもいつか、そんな旅をしたいなぁ……っ』
「…………ミゲル。あたし達も楽しむためだけに、いつかこの市場に来ましょうね……」
「うん、そうだね。そうできるよう僕も、精一杯サポートをするよ」
「…………ありがと。頼りにしてるわよ、お兄ちゃん」
あたし達はげんなりしつつも、気を取り直して拳と拳をコツン。理想を現実とするべく、都市の中央へと闊歩した。
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