お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?

柚木ゆず

文字の大きさ
9 / 24

第6話 約束の意味 ティファニー視点

しおりを挟む
「レオナルド・ラインメーズ。彼はミントティファニーだと気が付いた時から、君に向けて醜悪な殺気を放っていたんだよ。それを看過することはできなかったんだ」

 フィベールさんは、実戦経験が多々ある騎士団長。長年の修行と経験によって、わたしには分からないものを感じることができます。
 わたしだと気付いたレオナルド様は、ずっとわたしをその手で殺したがっていたそうです。それも、残酷さを伴うやり方で。

「あの男はすでに、ティファニーは疫病神ではなかったと理解していた。けれどそれでも、いろいろと納得できなかったんだろうね。ずっと君に逆恨みをしていて、姿を目にしたことで感情が爆発した。会話している間に、5……6回は、心の中で殺めたはずだ」
「……そうでしたか。あの方らしいお考えです」
「ティファニーの意思を尊重して、過去の出来事には首を突っ込まないと決めていた。けれど愛する人にあんな負の感情を向けられてしまったら、君の騎士としては見過ごせなかったんだ。どうしてもね」

 さっきは我を通してしまい、ごめん――。続いてそんな風に謝ってくれて、わたしは即座に首を左右に振りました。

「大切な人が怒ってくれて、わたしは嬉しい、幸せです。フィルベールさん、ありがとうございました。今この胸の中には、感謝しかありません」
「そう言ってもらえて、ホッとしたよ。……あの男と会うのは最初で最後だから、あの場で何かしらしたかった。仕掛ける機会をくれて、本当にありがとう」
「いえ、それもわたしのために行ってくだ――あれ? 最後……?」

 今。フィルベールさんは最後、もう会うことはないと言いましたよね?

「? ?? 別れ際に、一年後に確認する約束をしていましたよね……? なのに、もう会わないのですか?」
「うん、会わない。一年後にあの場所に行きはしないよ。あれはね、あの男を――あの男を含めた商会関係者を、かき回すために行った嘘の約束なんだよ」

 あの様子ならレオナルド様でありハピンズ商会は、衰退を辿っていて自力での立て直しは不可能な状況になっているはず。でもあんな風に言われたしまったら、あのような性格の持ち主は逆ギレをして何が何でも一泡吹かせようとする。

 何も持っていない状態で無能が躍起になって動いたら、面白いことになる。

 フィルベールさんは、そういったことを考えていたようです。

「今回一度だけの接触で、どうやれば一番引っ掻き回せるか? あの時浮かんできたものの中でベストなアイディアが、それだったんだ」
「あの一瞬で作戦が浮かんで、あんなにも自然に相手を操るだなんて。さすが、智を兼ね備えたグリフォン騎士団の団長ですね」
「僕が今『智を兼ねた』人間でいられるのは、あんな風に堂々と振る舞えるのは、ティファニーのおかげだよ。いつもありがとう」

 優しくて温かい、微笑み。わたしが大好きなものを向けてくれたあと、フィルベールさんは小さくポンと両の手のひらを合わせました。

「じゃあさっきの話はこれで終わりにして、違う話をしよっか。せっかくの新婚旅行だしね」
「そうですね、そうしましょう。そういえば、週末にある『シャーンス』での『春の豊穣祭』なのですが――」

 わたしにもフィルベールさんにも、移動しながら話したいことが沢山ありました。ですのでパッと話題は変わり、再び――。
 愛と幸せを感じながら行う移動が、はじまったのでした。


 〇〇


 こうしてティファニーとフィルベールは薔薇色の時間を過ごし始めましたが、レオナルドにそんな時間が訪れることはありませんでした。

 一年後の約束を交わし、激怒しながらあの場を去ったレオナルド。

 彼は顔を真っ赤にしたまま、お屋敷へと飛ぶように帰って――



しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

(完結)妹の為に薬草を採りに行ったら、婚約者を奪われていましたーーでも、そんな男で本当にいいの?

青空一夏
恋愛
妹を溺愛する薬師である姉は、病弱な妹の為によく効くという薬草を遠方まで探す旅に出た。だが半年後に戻ってくると、自分の婚約者が妹と・・・・・・ 心優しい姉と、心が醜い妹のお話し。妹が大好きな天然系ポジティブ姉。コメディ。もう一回言います。コメディです。 ※ご注意 これは一切史実に基づいていない異世界のお話しです。現代的言葉遣いや、食べ物や商品、機器など、唐突に現れる可能性もありますのでご了承くださいませ。ファンタジー要素多め。コメディ。 この異世界では薬師は貴族令嬢がなるものではない、という設定です。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!

藤野ひま
ファンタジー
 わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。  初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!  夫や、かの女性は王城でお元気かしら?   わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!  〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕

「10歳の頃の想いなど熱病と同じ」と婚約者は言いました──さようなら【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王太子フリードリヒの婚約者として、幼い頃から王妃教育を受けてきたアメリア・エレファウント公爵令嬢。 誰もが羨む未来を約束された彼女の世界は、ある日突然1人の少女の登場によって揺らぎ始める。 無邪気な笑顔で距離を(意図的に)間違える編入生ベルティーユは、男爵の庶子で平民出身。 ベルティーユに出会ってから、悪い方へ変わっていくフリードリヒ。 「ベルが可哀想だろ」「たかがダンスくらい」と話が通じない。 アメリアの積み上げてきた7年の努力と誇りが崩れていく。 そしてフリードリヒを見限り、婚約解消を口にするが話は進まず、学園の卒業パーティーで断罪されてしまう……?! ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています

【完結】やってしまいましたわね、あの方たち

玲羅
恋愛
グランディエネ・フラントールはかつてないほど怒っていた。理由は目の前で繰り広げられている、この国の第3王女による従兄への婚約破棄。 蒼氷の魔女と噂されるグランディエネの足元からピキピキと音を立てて豪奢な王宮の夜会会場が凍りついていく。 王家の夜会で繰り広げられた、婚約破棄の傍観者のカップルの会話です。主人公が婚約破棄に関わることはありません。

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです

今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。 が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。 アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。 だが、レイチェルは知らなかった。 ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。 ※短め。

妹が欲しがるので婚約者をくれてやりましたが、私の本命は別にいます

Megumi
恋愛
姉・メアリーの真似ばかりして、周囲から姉を孤立させていく妹・セラフィーナ。 あなたはお姉さんだからと、両親はいつも妹の味方だった。 ついには、メアリーの婚約者・アルヴィンまで欲しがった。 「お姉様、アルヴィン様をシェアしましょう?」 そう囁く妹に、メアリーは婚約者を譲ることに。 だって——それらは全部、最初から「どうでもいいもの」だったから。 これは、すべてを奪われたはずの姉が、最後に一番大切なものを手にいれる物語。

処理中です...