自分のせいで婚約破棄。あたしはそう思い込まされていました。

柚木ゆず

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第3話 3週間後(2)

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「ソールさん。左右に揺れるこのコインを、5秒間しっかり見つめてくださいね」
「……はい。分かりました」

 彼はコクリと頷いて、1、2、3、4、5秒が経過。これで下準備はお仕舞いで、これから術を施します。

「ソールさん。アンドレ・ソールさん」
「……はい。なんでしょう?」
「貴方は今後その力を、人の役に立つことにのみ使ってください。催眠術は元々強きを挫き弱きを助ける目的で編み出された秘術ですから、ご先祖様の意思に従いこれからは正しく使用してください」
「……俺は今後その力を、人の役に立つことにのみ使います。催眠術は元々強きを挫き弱きを助ける目的で編み出された秘術ですから、ご先祖様の意思に従いこれからは正しく使用します」

 こうしてソールさんの中で催眠術の認識が変わり、これからは正義の術となります。
 この人が力を振るえば、多くの人が不幸になってしまいますからね。この部分にだけ介入させてもらいました。

「……あたしがもう一度指を鳴らせば、元通りになります。はい」
「…………あれ? 俺は、何を……?」
「睡眠不足で、ウトウトされていましたよ。どうぞお戻りになってお休みください」
「そうだな、そうさせてもらう。じゃあな――とそうだ」

 窓を開けようとしていたソールさんは、くるり。上体をこちらに捻じりました。

「お前はこれから、どう動くんだ? やっぱ即日行動開始で、本命に仕掛けるのか?」
「そうしたいところなのですが、お母様とお父様は他貴族との会談で明日の午前中に戻ってくるのですよ。なので本格的な決行は明日で、今日はそのための準備をしておきます」

 唯一屋敷内にいる家族、妹のララ。お母様への実行はあの子が必要不可欠ですから、まずは彼女に接触します。

「よく分からないが、くれぐれも失敗するんじゃないぞ。そいつは、コインの消失に繋がりかねないからな」
「充分、注意いたします。ソールさん、三週間ありがとうございました」

 この人にお世話になったのは確かな事実なので、丁寧にお辞儀。そうして『先生』を見送ったあたしはボロボロの布をかけて床で眠り、動き出せるようになる時まで久しぶりにまとまった睡眠をとることにしたのでした。

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