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第4話 反撃その1(3)

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「ふぁぁ……。よく寝たぁ……」

 仕込みを終えて小一時間後。ララはむっくりと起き上がり、ベッド上でグッと伸びをしました。

「おはようございます、ララ様。お身体の調子はいかがですか?」
「前よりは、そこそこ楽になったわ。もう部屋にいなくていいわよ」
「はい、ただちに退室致します。何かございましたら、遠慮なくお申し付けください」
「ん、またあとで指示を出すわ。すぐ動けるようにしときなさいよ――ああそうそう。一つあったんだった」

 床に降り立ったララは、パンと手を叩きました。

「なんかお姉ちゃんが振るコインを、見たくなったの。早くやって」
「コイン、ですね? 畏まりました」

 この状態になれば、多少強引にやっても疑問に感じはしません。そのためすぐに懐に忍ばせていた紐付きのコインを出し、ララの顔の前に垂らしました。

「お姉ちゃん。お姉ちゃん、早くしなさい」
「はい。よく見ていてくださいね」

 教わったリズムを守って、コインを左から右、右から左へと動かす。そうしてそのゆらゆらを5秒間繰り返せば、先ほどとは違いしっかりとした催眠状態になりました。

「…………ララ様。あたしの声が、聞こえていますね?」
「……はい。聞こえています」

 ボーっとした目と声で、淡々と答える。
 この状態は間違いなく、催眠にかかっている時のそれ。ソールさん以外で試すのは初めてでしたが、問題なく成功しました。

「ではそのまま、三つしっかりと聞いてください。まず、一つ目。貴方は今見た、コインの動きとリズムを完璧に覚えます」
「……私は今見た、コインの動きとリズムを完璧に覚えます」

 これで、一つ目は完了。ララはあたしが指示を出した時のみ、あたしと全く同じようにコインを動かせるようになりました。

「次に、二つ目。貴方は明日のお昼に姉を誘ってお母様の部屋に行き、少々雑談をしたあと、お母様の目の前でコインを動かしたくなります」
「……私は明日のお昼に姉を誘ってお母様の部屋に行き、少々雑談をしたあと、お母様の目の前でコインを動かしたくなります」
「最後、三つ目。そうしてお母様に催眠を施した貴方は催眠の支配権を姉に譲り、姉の行動が終わるまで大人しく傍で待機します」
「……そうしてお母様に催眠を施した私は催眠の支配権を姉に譲り、姉の行動が終わるまで大人しく傍で待機します」

 以上で、妹への催眠はお仕舞い。
 ララとお母様はあたしをあざ笑うために、『幸せになれるおまじない』と嘯き頻繁に紐をつけたコインを揺らして遊んでいました。ですのでそこを上手く利用すれば、催眠術の存在を知っている、そしてララとは違いマッサージなどで微睡んでくれないお母様にも、催眠を施せるのです。

「ララ、明日はよろしくお願いしますね。……それではあたしが指を鳴らせば、元通りになります」

 目的を全て果たしたあたしは、ただちに仕込みを終わらせる準備をします。
 ララにも色々と尋ねたいことがあるのですが、あまり長くしていると使用人の方などが来てしまいます。どうせ元凶に聞けば瞭然ですので、今日は欲張らずにここまでにしておきましょう。

「音を、よく聞いていてくださいね。…………はい」
「…………? ?? あれ……? 私、どうしてたんだろ……?」

 正気に戻ったララは、ソールさんのように首を傾げて目を瞬かせます。
 かけられた人の中では、時間が止まっていますからね。違和感を覚えてしまうのです。

「まだ、眠気が残っていたようですね。ララ様は一瞬、ウトっとされていましたよ」
「ああ、そうだったのね。それじゃあ、ええっと…………ああそうそう。用が済んだから出ていきなさい」
「はい。ララ様、失礼致します」

 深々と腰を折り曲げ、速やかに退室。かくしてあたしは無事に仕込みを終え、いよいよ明日です。お母様に全てを問いただせるようになりました。
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