自分のせいで婚約破棄。あたしはそう思い込まされていました。

柚木ゆず

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第5話 反撃その2(1)

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「ママっ。お話しをしましょ」

 翌日のお昼。あたしはララに誘われ、お母様の私室にやってきました。
 こうして掃除以外でお母様の部屋に入るのは、生まれてから初めて。あたしの姿を見たお母様は露骨に嫌な顔をしていましたが、ララのお誘いという形なので渋々承諾されました。

「ワタシの部屋で話しをするなんて、珍しいわね。しかも余計なものまで連れてきて、どういう風の吹き回しなの?」
「こんなのでも一応は家族なんだから、たまには仲間に混ぜてあげないとね。あ、でもお姉ちゃんは、座っちゃ駄目よ。イスに座るのは私たちだけで、そっちは立ったままね」

 催眠に感付かれないように、性格はそのまま。そのためいつものように意地悪をされ、あたしは立ったまま二人のお話を聞きます。


「昨日素敵なお店を見つけて、そこで美味しい紅茶を頂いてきたの。ララ、今度は一緒に行きましょうね」
「うんママっ。お姉ちゃんも――あ~そっか~。お姉ちゃんは外出を禁止されていて、出掛けられないんだったね」


「そうそう。街にあるモミの木、来年は別の物になるんですって」
「えっ、そうなのっ!? 昔から街の人達も『クリスマスの時はあれ!』ってなってたのに、替わっちゃうんだぁ。お姉ちゃんも寂しいよね――ぁ、ごめーんっ。お姉ちゃんは一度も見たことがなかったよね」


 二人にとって『一番楽しい話』は、あたしへの嫌がらせが混ざる話。今日も相変わらず、頻繁にあたしへの悪意が含まれます。

「お姉ちゃん。街はもちろんだけどね、この近くにもたーっくさん素敵なトコがあるんだよ。いつか行けるようにって願いを込めて、おまじないをしてあげるね」
「あら、いつものアレね? 是非やってあげなさい」

 ニヤリ。ララとお母様が意地悪く口元を緩め、ララが紐がついたコインを取り出しました。
 ただし今日のコインは、あらかじめあたしが渡しておいたソールさんのもの。いよいよ、昨日した仕込みが花を開く時です。

「お姉ちゃん、このコインをじっくり見ててね。いくよ?」
「はい。お願いします」
「いーち。にーい。さーん。よーん。ごーっ。はいっ! お姉ちゃんには、近いうちにラッキーがやって来ますっ」
「そうね、ララ。五日後くらいに、最高な出来事があるような気がするわ」

 五日後。それはあたしが思い悩み、服毒自殺をする日ですね。
 これはいつも感じることなのですが、二人は本当に人の心があるのでしょうか? と疑問に思います。

「五日後、ですか。楽しみにしています」
「期待しててね、お姉ちゃん。じゃあコインは片付けて――そだっ。ママにもやってあげるね」(ソールとコインのおかげで、もうじき最高のハッピーが来るんだもん。幸せのおすそわけ、だよ)
(ワタシ達にとってコインは、幸運の象徴だものね)「お願いするわ」

 騙されているなんて微塵も思っていないお母様は、この上なく嬉しそうに首肯。何一つ疑うことなく硬貨を見つめました。

「じゃー、いっくね。いーち。にー。さーん。よーん。ごーっ!」
「…………………………」

 それを合図にお母様の目と身体が適度に脱力し、

「……お姉ちゃん。どうぞ」

 三つ目の催眠により、ララはこちらにコインを返して椅子で待機の体勢になりました。
 …………さて。いよいよ本番です。催眠術を用いて、気になっていたことを全て教えてもらいましょう。
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