自分のせいで婚約破棄。あたしはそう思い込まされていました。

柚木ゆず

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幕間 王太子フェリクス

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(可愛い……。こんな近くに、こんな女がいたなんて)

 婚約が決まり、両家が正式に挨拶を行う日。ラナラ家側の出席者であるララ・ラナラを目にしたフェリクスは、一瞬にして頭の中がララ一色となった。


 お転婆な印象を受ける、ツリ目が特徴的な顔。
 二つに結わえられた、サラサラな茶色の髪。
 子猫のような、保護欲を掻き立てられる声。
 などなど。


 ララを構成する全ての要素がフェリクスの『ツボ』に嵌り、あっという間にララの虜。今し方まであったミーナへの愛は跡形もなく消え去り、すでにララと歩む未来の事ばかり考えるようになっていた。

(俺はこの子、ララと生涯を共にする。……だがその前に、邪魔者をどうにかしなければならないな……)

 フェリクスも、セドリック――ミーナの父同様、非常に身勝手な生き物。そのため自らが強引に呼んだ相手を邪魔者扱いし、挨拶の儀式をこなしながら『どう処分すべきか』を考えていた。

(判断ミスをしてしまい、王太子といえど無傷での撤回は不可能な状況になってしまった……。ここで無理やり破棄をしたら…………やはり、各所からの批判は避けられないな)

 当たり前の話この国にも法理はあって、王族であっても傍若無人な振る舞いはできない。一応できるにはできるのだが、そうなれば貴族や平民との関係にヒビが入ってしまう。

(父上や母上の協力を得られれば上手くやれるが、アイツらは堅物。こういう事に協力はせず、逆に罰を受ける羽目になってしまう……)

 フェリクスの両親は堅物なのではなく、常識人。もしも露見すれば王太子の資格剥奪など、厳しい処罰が下される。

(こいつは個人で対応できる問題ではなく、さりとて身内の力は借りられない……。どうしたものか……)

 ララとの結婚以外、考えられない。そんなフェリクスは過去にない程、懸命に思考を巡らせる。

 そんな、時だった――。

(ん? ララが、俺を見ている……?)

 フェリクスは意中の人の好意の目線に気付き、それが切っ掛けとなって事態は好転。ラナラ夫妻はミーナを疎み、ララを可愛がっている――ミーナではなくララを王太子妃にさせたがっていると知る。

(……なるほど。あちらにも、色々と事情があるようだな。ならば)

 利害が、一致する。
 フェリクスは即座にミーナ以外の3人に声をかけ、計画がスタート。ミーナを追い出しララを迎えるための作戦が、4人の間で始まったのだった。
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