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「わぁー、なにこれっ? もっと面白そうなものっ、みーっけ」

 サビさんのところの子はちょっぴり乱暴で危ないから、ここで待っていてね。そう言われたのに、綺麗なチョウチョ追いかけてしまったヒロ。
 目をキラキラさせながら走っていたヒロは、道に停めてあった軽トラックの前で急に立ち止まった。

「これって、ママが言ってた『クルマ』だ! でもママが言ってた『クルマ』と違う! 後ろに隠れられるところがあるっ!」

 軽トラックの荷台にかけられていた、グリーンのシート。興奮しきっているヒロはぴょんとその中に飛び込み、その中でゴロゴロ転がり始めました。

「わぁーっ、楽しーっ! 秘密基地みたいーっ! わははははははははー!」

 そうやって遊び始めて、5分くらいした頃かな。
 動き回っていたヒロは、「そうだ!」と大きな声を出した。

「もうすぐママがボクを探しに来るはずから、ここに隠れてよ。かくれんぼのスタートだーっ!」

 ニシシッと笑ったヒロは動き回るのをやめて、ごそごそごそ。シートの隅で丸まりました。

「ママはお鼻がすごくいいから、気付かれちゃうかな? だいじょーぶだよね? うんだいじょうぶっ。大成功するはずだよねっ」

 ウキウキしながらお母さんのミケを待ち始めて、また5分くらい経った頃だと思う。キラキラしていたお目目が、段々小さくなり始めた。

「ふぁぁ~。なんだか眠くなってきちゃった。寝ちゃったらかくれんぼを楽しめないから、寝ないようにしないと……。がんばれ、ボク……。せっかくの……おもしろい……こと、なんだし……。がんば……って、おき………………すぅ、すぅ、すぅ…………」

 一生懸命まぶたを上げようとしたけど、駄目だった。何度かパチパチさせたあと両目が閉じちゃって、かわいらしい寝息が聞こえてくるようになっちゃった。
 そして。

「よっし、やっと仕事が終わった。そろそろ帰るか」

 ヒロが眠ったらすぐ、おじさん――軽トラックの持ち主さんがやって来た。

 ――チョウチョを追いかけている途中で軽トラックを見つけて忍び込み、つい眠ってしまっている間に車ごと知らない場所に動いてしまう――。

 これがこの本の、ヒロが迷子になっちゃう切っ掛け。
 あやかしさんが、イタズラしたところだ。

「レオンさん、ここが違ってます。本当のお話ではトラックで移動してないので、眠っているヒロをトラックから降ろさないといけません」

 でもさっき言っていたように、わたしはヒロに触ることはできない。
 じゃあ、どうするのかというと――
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