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7 本のあやかし(3)

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「あのクイーンが会いに来てくれたのなら、知らんぷりをするワケにはいかないもんね。よっこらせっと」

 私より少し上の、15歳くらい、かな。白のTシャツと長ズボン姿の男の子は滑り台を滑って私の前にやって来て、「どうもはじめまして」と挨拶をしてくれました。
 この男の子はどこからどう見ても人間なんだけど、目の前にいるのは本のあやかしさん。
 あやかしさん達は自分が気に入った本の作者さんと会話ができるように、私達と同じ人間の姿になって、同じ言語を使うこともできるんだ。

「あの図書館ができて初めて全部の本を読んだ人間であり、しかもそれを中学1年生で達成してしまった人間。有名人と会えて嬉しいよ」
「私も、お会いできて嬉しいです。実は――」
「うんうん、分かってる。分かってるよ」

 私が話そうとしていたら、あやかしさんは右手を前に突き出した。

「キミは図書館の司書君と協力して、『本のあやかし』が手を加えた本をもとに戻そうとしてるんでしょ? ここにいるってことは、ボクが書き直した『猫の大冒険』はもう戻しちゃってるんだよね?」
「はい、そうです。私達の活動をご存じなんですね」

 本のあやかしさんはみんなバラバラで自由に生きていて、意外と知らないことが多いってレオンさんが言っていた。
 レオンさんと私がやっていることは、あやかしさん達にもかなり広まってきてるんだ。

「うん。よく知ってるし、感謝もしてるよ」
「え、感謝? そうなのですか?」
「そうそう、そうなんだよ。こないだ、ミゲル――ボクの親友が手を加えた本は、とにかく酷かった。アイツは主人公の性格に手を加えたせいで滅茶苦茶になって、読んでいて不愉快だったんだよ~」

 先週イタズラがあった、『嘘吐きの男の子と正直な女の子』という題名の本。
 それは嘘吐きの男の子が正直者の女の子と出会って、嘘は悪い、ということに気付いていくお話なんだけど……。
 主人公の男の子には幽霊が見える力があって、『お化けがいる』とずっと言っていたのは本当だった、ってことになっちゃって……。
 そのせいで途中から男の子が幽霊とお友達になるという内容になって、正直者の女の子が登場しなくなってたんだよね……。

「タイトルが『嘘吐きの男の子と正直な女の子』なのに、男の子は嘘吐きじゃないし、そもそも正直な女の子が出てこない。司書君も、おかしいと思ったでしょ?」
「ええ、そうですね。内容に共感できる部分はありましたが、タイトルと全く異なっているのは困りました」

 お話を振られたレオンさんが、顎に手を当てながら少し苦笑いを浮かべる。
 あの時は丁度イタズラがあった直後にその本が貸し出されていて、借りた人がすっごく怒って文句を言いに来たの。
 あれはレオンさんが変な本を置いてたからじゃないんだけど、本のあやかしさんのことは広めちゃいけないから……。誤魔化すのが、大変だったんだよねえ。

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