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第3話 直後に起きていたこと~驚き~ エミリー視点(1)
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「……………………」
お屋敷を追い出されてしまってから、僅か3分後。わたしは道で棒立ちになり、目を丸くしていました。
――いつか、追い出される日が来てしまうはず――。
あのお屋敷にいるのはマリオンのような人間と、そんな人を可愛がるお父様とお母様。常識、正論が通用しない人達です。
いずれそういうことが起きると嫌な確信を持っていて、そんな時に備えて、密かにおばあ様の親族にお手紙を送っていた――路頭に迷ってしまった時は、身を寄せさせてもらえるようにしていました。ですのでその方のもとに向かうべく、寄り合いの馬車に乗ろうとしていたのですが――
「こんにちはお嬢さん。おひとりでどちらに行かれるのですか?」
――そうしていると突然目の前に馬車が停まり、銀髪の男性が――表向きは同じ絵の会に所属する特に親しくはないメンバーのひとり、実際は唯一無二の親友である、チュワヴァス子爵令息リシャールさんが降りてきたのです。
「……………………。どうして、リシャールさんがここに……?」
「道の真ん中で立ち話もなんだしね。詳しい話は中でするよ」
「は、はい。あ、ありがとうございます」
リシャールさんにエスコートされて馬車に乗り込み、わたしが腰を下ろすと馬車がゆっくりと動き出す。そうして御者さんに指示を出した後、対面に座っているリシャールさんは小さく咳払いをしました。
「じゃあ、さっきの続きを話そうか。僕がどうしてこの場にいるのかと言うと、エミリーさんを迎えに来たんだよ」
「……え? わたしを、迎えに……?」
「前に写生会で会った時、この国の流行の話をしていたでしょ? アレで僕もマリオンがおばあ様の形見に目をつけると確信していて、それによって最悪追い出されると予想していた。だから面倒なことになる前に、エミリーさんがお屋敷を出られるようにしようとしていたんだよ」
お父様とお母様に会い、用意していたお金を提示する――わたしが家族の縁を切って、リシャールさんが居るチュワヴァス子爵邸で暮らせるように交渉を行う。そちらを行うために、お屋敷を目指している最中だったそうです。
「……シャール、さん……」
「運よく先月、新しい『武器』ができたでしょ? それを使って父上や親族を説得していて、今日ようやく許可が下りたんだ。やっと、本当にやっと、『口だけ男』の汚名を返上できるよ」
あんな人間に囲まれていたら、酷いことしか起きない――。こんなこと間違っている――。これからマリオン達に気付かれないようにコッソリ動いて、いつかエミリーさんを助けるよ――。
会のメンバーで集まって、リシャールさんの13歳のお誕生日をお祝いしていたあの日――偶然マリオンの本性とお父様とお母様の溺愛を知った4年前から、リシャールさんはずっとそう言ってくれていました。
ですが、リシャールさんもわたしも貴族の一員。独断で動ける問題ではなく、しかも内容が内容だけに、実現はほぼ不可能だとお互い感じていたのでした。
お屋敷を追い出されてしまってから、僅か3分後。わたしは道で棒立ちになり、目を丸くしていました。
――いつか、追い出される日が来てしまうはず――。
あのお屋敷にいるのはマリオンのような人間と、そんな人を可愛がるお父様とお母様。常識、正論が通用しない人達です。
いずれそういうことが起きると嫌な確信を持っていて、そんな時に備えて、密かにおばあ様の親族にお手紙を送っていた――路頭に迷ってしまった時は、身を寄せさせてもらえるようにしていました。ですのでその方のもとに向かうべく、寄り合いの馬車に乗ろうとしていたのですが――
「こんにちはお嬢さん。おひとりでどちらに行かれるのですか?」
――そうしていると突然目の前に馬車が停まり、銀髪の男性が――表向きは同じ絵の会に所属する特に親しくはないメンバーのひとり、実際は唯一無二の親友である、チュワヴァス子爵令息リシャールさんが降りてきたのです。
「……………………。どうして、リシャールさんがここに……?」
「道の真ん中で立ち話もなんだしね。詳しい話は中でするよ」
「は、はい。あ、ありがとうございます」
リシャールさんにエスコートされて馬車に乗り込み、わたしが腰を下ろすと馬車がゆっくりと動き出す。そうして御者さんに指示を出した後、対面に座っているリシャールさんは小さく咳払いをしました。
「じゃあ、さっきの続きを話そうか。僕がどうしてこの場にいるのかと言うと、エミリーさんを迎えに来たんだよ」
「……え? わたしを、迎えに……?」
「前に写生会で会った時、この国の流行の話をしていたでしょ? アレで僕もマリオンがおばあ様の形見に目をつけると確信していて、それによって最悪追い出されると予想していた。だから面倒なことになる前に、エミリーさんがお屋敷を出られるようにしようとしていたんだよ」
お父様とお母様に会い、用意していたお金を提示する――わたしが家族の縁を切って、リシャールさんが居るチュワヴァス子爵邸で暮らせるように交渉を行う。そちらを行うために、お屋敷を目指している最中だったそうです。
「……シャール、さん……」
「運よく先月、新しい『武器』ができたでしょ? それを使って父上や親族を説得していて、今日ようやく許可が下りたんだ。やっと、本当にやっと、『口だけ男』の汚名を返上できるよ」
あんな人間に囲まれていたら、酷いことしか起きない――。こんなこと間違っている――。これからマリオン達に気付かれないようにコッソリ動いて、いつかエミリーさんを助けるよ――。
会のメンバーで集まって、リシャールさんの13歳のお誕生日をお祝いしていたあの日――偶然マリオンの本性とお父様とお母様の溺愛を知った4年前から、リシャールさんはずっとそう言ってくれていました。
ですが、リシャールさんもわたしも貴族の一員。独断で動ける問題ではなく、しかも内容が内容だけに、実現はほぼ不可能だとお互い感じていたのでした。
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