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5話(4)
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「おや、ルシアンさんが動物の絵を描いていますね。珍しいです」
あの日のわたしは家に併設されているアトリエにいて、後ろからひょこっとキャンパスを覗き込みました。
ルシアンさんが得意とするのは風景画で、生き物を描いた作品は僅か数点です。なのであの時のわたしは、疑問と興味が湧いていました。
「しかも題材は、熊、ですね。どうしてこれなのですか?」
「お得意様から、オーダーがあったんだよ。ミーサス熊の雄々しさに惚れ込んでいて、いつでもその姿を見れるようにしたいんだってさ」
自慢をさせてもらいますと、ルシアンさんはこの辺りでは有名な画家さんですからね。しばしば、貴族様などから御指名があるのです(こうやって御指名が来るのは、一流の証なんですよ!)。
「あっ、だから力強さに溢れているのですね。……それにしても……」
「ん? どうしたの?」
「ミーサス熊を直接見たことがないはずなのに、細部の描写まで完璧に行われていますね。どうやった描いたのですか?」
図鑑でも、ここまで鮮明には載っていません。気になったわたしは、小首を傾げました。
「ああ、これ? これは図鑑をもとに目撃者や専門家の方に、詳細を事細かに伺ったんだよ」
現在休憩中のルシアンさんは椅子から立ち上がり、机にあった紙の束を持ってきて見せてくれました。
「流石に、ミーサス熊を見に行くわけにはいかないからね。こうやって情報を集めて、頭の中でイメージを再構成させたんだよ」
「なるほど、そうだったのですね……。すごい分析の数々で、改めて尊敬しちゃいます」
他の熊と違って、頭部の体毛は前から後ろに向けて生えている。
他の熊よりも視力が若干悪いためなのか、両目は他の種よりも大きく開いている。
他の種よりも2~3倍ほど嗅覚が優れていて、そのため鼻と鼻の穴は少し大きめとなっている。
などなど。1枚の絵を描くために、100枚以上びっしりと研究されていました。
トップ画家と称えられるようになっても、一切手を抜かないその姿勢。そんなとこも大好きなポイントの一つ、なんですよね。
「真摯に打ち込む人が傍にいてくれるから、わたしも常に気が引き締まります。公私共に、ルシアンさんにはお世話になっていますね」
「…………………………」
「??? ポカンとされて、どうしたのですか?」
餌を待つお魚さんのように、お口がパクパクしています。これは、なんなのでしょうか……?
あの日の私は、キョトンとして首を傾げました。
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