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第9話 紹介いたします クラリス視点(1)
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「紹介いたします。こちらはセレスタン・オルヴァス様。わたしの婚約者様です」
目を見開いたまま、石像のように固まっているクレランズ様。そんな彼に、この方のお名前と関係をお伝えした。
きっとわたしに興味がなく、気が付かなかったのでしょうね。左手の薬指にある、エンゲージリングに。
「こ、婚約者だと……!? そんな噂は知らないぞ……!? 一体いつっ、そんなことになったんだ……!?」
「お言葉とこちらのリングをいただいたのは、一昨日でした。世間に認知されていないのは、婚約発表は来週行うからですよ」
セレスタン様は家督継承の準備など、わたしは商会の仕事――大事な商談への同席などが複数件以前から入っていて、今週は長時間を要する発表の席を設けることができなかった。そこで来週となり、ちょうど今日はこちらで、一緒にそちらに関する最終的な打ち合わせを行っていた。さっきはそれがようやく終わって、2人でリラックスしようとしていたのです。
「僕は、商会との取り引きの際に――約7か月前に初めてクラリス様とお会いし、その真っすぐな瞳、実直なお人柄に惹かれましてね。交際を申し込ませていただいて、ありがたいことに先日、婚約者となってくださったのですよ」
「な……っ、オルヴァス様から……!? こ、この女に……。そんな長所なんてないのに――」
「有されているから、こうして惹かれたのですよ。……僕の目の前で最愛の人を愚弄するとは、噂以上に面白い人だ。おかげで、苛立ちを覚えてしまっていますよ」
クレランズ様の言葉を即座に止め、クスリと口元を緩められた。だけど瞳は全く笑っておらず、氷柱のように冷たく鋭いものとなっています。
「ぁ、いえ……っ。あのっ。こ、これは……っ。ち、違うのですよ……っ。つ、つい、と、申しますか……。貴方様のご機嫌を損ねるつもりはなく……っ。撤回っ、撤回いたしますのでっ! お許しください――」
「誰にでも、『つい』はありますからね。いいでしょう。こちらに関しては、目を瞑りますよ」
「あっ、ありがとうございますっ! ありがとうございますっ!! 先程は、まことに申し訳ございませ――え……? あ、あれ……? こちらに関して、は……?」
安堵の息を吐いていたクレランズ様に、再び動揺が表れる。脱力しきっていた体は再び強張り、だらだらと汗が流れるようになった。
「で、でしたら……。他の部分は、目を瞑っていただけない……? わ、わたくしは、他にも……。粗相を口にしてしまったのですか……? な、なにを、言ってしまったのでしょうか……?」
「僕の登場や失言などで気が動転し、忘れてしまっているようですね。貴方は扉が開く前、クラリス様に対して何を言っていましたか?」
「と、扉が開く前……? それは――っっっ!」
戸惑いに満ちていたクレランズ様の顔が真っ青になり、唇は紫へと変色した。さっき自分が口にしていたものを、やっと思い出したみたいね。
「2度に渡る、自己中心的な脅迫行為。僕はそちらを、許すつもりはありません。……覚悟してくださいね?」
目を見開いたまま、石像のように固まっているクレランズ様。そんな彼に、この方のお名前と関係をお伝えした。
きっとわたしに興味がなく、気が付かなかったのでしょうね。左手の薬指にある、エンゲージリングに。
「こ、婚約者だと……!? そんな噂は知らないぞ……!? 一体いつっ、そんなことになったんだ……!?」
「お言葉とこちらのリングをいただいたのは、一昨日でした。世間に認知されていないのは、婚約発表は来週行うからですよ」
セレスタン様は家督継承の準備など、わたしは商会の仕事――大事な商談への同席などが複数件以前から入っていて、今週は長時間を要する発表の席を設けることができなかった。そこで来週となり、ちょうど今日はこちらで、一緒にそちらに関する最終的な打ち合わせを行っていた。さっきはそれがようやく終わって、2人でリラックスしようとしていたのです。
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クレランズ様の言葉を即座に止め、クスリと口元を緩められた。だけど瞳は全く笑っておらず、氷柱のように冷たく鋭いものとなっています。
「ぁ、いえ……っ。あのっ。こ、これは……っ。ち、違うのですよ……っ。つ、つい、と、申しますか……。貴方様のご機嫌を損ねるつもりはなく……っ。撤回っ、撤回いたしますのでっ! お許しください――」
「誰にでも、『つい』はありますからね。いいでしょう。こちらに関しては、目を瞑りますよ」
「あっ、ありがとうございますっ! ありがとうございますっ!! 先程は、まことに申し訳ございませ――え……? あ、あれ……? こちらに関して、は……?」
安堵の息を吐いていたクレランズ様に、再び動揺が表れる。脱力しきっていた体は再び強張り、だらだらと汗が流れるようになった。
「で、でしたら……。他の部分は、目を瞑っていただけない……? わ、わたくしは、他にも……。粗相を口にしてしまったのですか……? な、なにを、言ってしまったのでしょうか……?」
「僕の登場や失言などで気が動転し、忘れてしまっているようですね。貴方は扉が開く前、クラリス様に対して何を言っていましたか?」
「と、扉が開く前……? それは――っっっ!」
戸惑いに満ちていたクレランズ様の顔が真っ青になり、唇は紫へと変色した。さっき自分が口にしていたものを、やっと思い出したみたいね。
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