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第2章

3話(10)

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「大変お待たせ致しました。そして、大変ご迷惑をおかけしました。ミファ・ソーラ様、ティル・レイル様、本当にごめんなさい……」

 毛先に少し癖のあるストロベリーブロンドを腰まで伸ばした、二十代半ばの女性。とても綺麗で温かい印象を持つレルマさん――レルマ様は、裏口から姿を現すや深々と腰を折り曲げた。

「お詫びは後日、きっちりとさせていただきます。重ね重ね、申し訳ありませんでした」
「ソーラさん、レイルさん。申し訳ありませんでした」
「そちらにとっても想定外だったようですので、これ以上の謝罪は結構ですよ。なあミファ」
「予想できないのなら、しょうがないです。私達は何とも思ってませんよ」

 それにあのトラブルは、ティルが楽々解決してくれた。誰も怪我をしてないなら、もう水に流してもいいよね。

「……ソーラ様、レイル様、ありがとうございます。それでは私達は今最も果たさないといけない事、真実をお話し致します」

 まだ客足は回復していないため、ドアに『CLOSED』の板をかけて一旦閉店。私達は2階にある自宅スペースのリビング部分にお邪魔して、四人掛けのテーブルにティルと私、対面にテオさんとレルマ様という形で腰を下ろした。

「まず初めに、あたしとテオの関係について詳説致します。あたし達は、幼馴染。幼い頃に学舎で知り合った、二十年来の幼馴染なのです」
「この国の王族は庶民が通う学舎で学ぶ伝統があり、僕達はそこで知り合い服飾の話題で意気投合。次第に友情が恋情になり、恋に落ちました」
「幼い頃からテオを知る父様――王はあたし達の仲と婚約を快く認めてくださり、本当なら……。今月、結婚をする予定でした」

 予定。現在はできなくなってるってこと、ね。

「先月の出来事、でした。父様に婚約の破棄を命じられ、新しい相手を用意されてしまったのです」
「あまりに理不尽な通告で、僕はすぐさま抗議をさせてもらいました。ですが……。その相手はこの世界で最も地位がある方なので、破棄の撤回は認められませんでした……」
「ちょっ、待ってください! 『先月』。『最も地位がある方』って! 相手はもしかして、勇者、なんですか?」
「「……はい」」

 沈痛を含んだ声が、ユニゾンした。
 やっぱり、そうなんだ。この人達も、ノルスの『夫人集め』のせいで迷惑をこうむってたんだ……。
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