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第2章

4話(9)ティルSide

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「どうしたどうしたっ、さっきから防戦一色だぞ! お前の実力はそんなものかっ?」

 ミファが戦闘を開始する前――。もう一方ではすでに勝負の幕が開けており、ティルは降り注ぐ火の玉を水の玉で打ち消していた。
 この戦いは開始早々、人型魔物が魔術を連発。言葉通りティルは攻撃する暇がなく、ずっと凌ぎ続けている。

「攻撃しないと、俺には勝てないぞっ? そろそろ反撃したらどうだっ?」
「……………………」
「ああそうか、反撃どころか喋る余裕すらないんだな。やはりオレは強すぎるか」

 この言葉は他者が用いれば自惚れだが、彼が使えば実力を表す言葉となる。
 人型魔物が使う魔術はどれも威力が高く、更に自身の魔力の貯蔵量は人間の10倍以上。『祝福』で高めたティルでさえも半分に及ばないほどで、その膨大な魔力を生かした攻撃はすさまじいものがあった。

「なら仕方がない、このまま攻め続けるとしよう。今度は氷の雨が降ってくるぞっ!」
「…………氷の雨には炎をぶつけて、対処する」
「んじゃお次は、岩の雨だ! これには弱点属性がないが、どうやって捌くんだっ?」
「簡単な事だ。避ける、という選択をする」

 ティルは弧を描くように大地を駆け、1メートルほどの岩石を9回躱す。
 彼はあっさりと避けたが、速度も威力もある魔術。これがティルでなければ、押し潰されて死んでいただろう。

「おーおー、魔術師のくせに避けるのが上手いな。もしかしてオマエは、アレか? 魔術だけじゃ強くなれないから、他の部分を鍛えたクチか?」
「…………。だとしたら、どうした?」
「それなら、この勝負は決まりだ。お前は何が起きても、オレには勝てやしない」

 引き続き攻撃をしながら――今度は雷を落としながら、人型魔物は嘲笑を浮かべた。
 否。
 それだけではない。
 明らかに、呆れが孕まれるようになった。

「いいか、ガキ。それは『強くなるための工夫』じゃない。『逃げ』だ」
「……………………」
「オマエは魔術に限界を感じ、他の道を探した。魔術は何十倍もの時を生きているオレでさえ極められない程に奥深いにもかかわらず、限界を感じて他を探した。こりゃ工夫じゃなくて、逃げだ」

 人型魔物は風の刃を6つ放ちながら、大仰に嘲る。

「せいぜい十数年で妥協するようなヤツは、他の道を探しても大成しない。オマエは全てにおいて、三流なんだよ」
「………………………………」
「人間相手ならそこそこ強いのかもしれないが、世界が変わればこの通り。手も足も出なくなる」

 ずっと回避運動を続ける――いまだに一度も攻めていないティルを直視し、呆れ交じりで鼻で笑う。

「こんな雑魚とも言えないヤツの相手をするのは、つまらない。時間の無駄だ。この一撃で終わらせてやる」

 人型魔物は仁王立ちとなり、頭上に杖を真っすぐ掲げる。そうすれば杖の先に、禍々しく大きな四角い物体が生まれた。
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