殿下は私に向けて、悲しそうに婚約破棄を宣告されました

柚木ゆず

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4話(1)

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「やあ兄様、こんばんは。こんな時間にどうしたのかな?」

 午前2時台の半ば。殿下がモリワール邸から出てきたタイミングに合わせ、陰で待機していた私達――アロイス様、アロイス様の従者・エドワードさん、御者さん、国王様直属の護衛係さん5名、私は、アロイス様を先頭にして接触をしました。

「アロイス、それにシャル――君まで……。どうしてここに……」
「ゆうべ偶然夜中に帰ってきたのを見ていて、今夜の予定を把握してたんだよ。副会長さんのお屋敷にコッソリお邪魔して、何をしてたのかなぁ?」

 アロイス様は、ニコニコと穏やかに。しかしながら両方の手の平に爪を食い込ませながら、首を傾けました。

「これだけの人に目撃されたら、言い訳なんてできないよ。もう諦めようね?」
「……………………。……………………」
「さあ、白状の時間だよ。ねえ、兄様。どうして深夜に、コッソリとお城を抜け出して、ここにいるのかな?」
「……………………。……………………。すべて、お前の想像通りだ。僕は…………アリナ・モリワールと、浮気をしていた」

 十数秒に渡る沈黙の後。ノルベルト様は、小さくため息をつきました。

「切っ掛けは僕が生徒会長、彼女が副会長に選ばれた三か月前。その日から彼女と接する機会が多くなり、必然的に彼女と深く関わるようになった。そうしたら、すぐ。たった数日後、だったね。アリナに惹かれていると、気付いたんだよ」
「へぇ、三か月も前からそうなってたんだ。自分から告白した人がいるのに」
「彼女への愛が上回ってしまったのだから、しょうがないだろう? アロイス。僕は本当の、運命の人に出逢ってしまったんだよ」

 殿下はお屋敷を一瞥し、正面に視線を戻します。

「無論アリナは恋人の存在を理由に拒んだものの、どうしてもこの気持ちを抑え込めなかった。だから、フェアではないのだけれど――。王太子の力をちらつかせて脅し、彼女を無理やり従わせた。もう一人の、それも本物の、恋人にさせたんだよ」
「……ふーん、どっちにも迷惑をかけてたんだ。シャルロッテ姉さんが『破棄の時に悲しそうな顔をしてた』って言ったけど、やっぱりアレは見間違いだね。こんなにも良い性格の持ち主は、罪悪感なんて湧かないから」
「……いいや、僕にも罪悪感があるにはあるぞ。うっかり表情に出てしまい、悟られてしまうほどにはね」
「じゃあ、なんで! あんな真似がっ! 浮気を誤魔化すために姉さんを傷付けるコトができるんだよ!!」
「その方が非難の声が減る上に、その後はスムーズにアリナと付き合えるからだ。幸い親類には、血統を重んじる人々が多く存在しているからね。そういう人間の援護も見越して、最も都合がいいものを選んだんだよ」

 憤るアロイス様に平然と言葉を返し、言い終わると――。ノルベルト様は、私へとお顔を向けました。

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