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7話(2)

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「殿下はやはり、分かっていません。思い込んで、勘違いをしていますっ!」
「勘違い……? なにを、勘違いしているというんだい……?」
「モリワール様に関して全て、です。あの方は打ち明けてくださる際に、必死になってなどいなかったのですよっ」

 あの時は、その状態とは真逆。目を瞬かせながら、不思議そうに話してくださいました。

「自分でもなぜ浮気捏造に協力したのか分からない、そういう風に仰っていました。全く違うのですよっ」
「…………え…………。本当、なのかい……?」
「確かに最初は否定されましたが、後半はまるで違います。立ち去ろうとしていたモリワール様は転んだあと急にキョトンとされて、困惑しつつ語ってくださったのですよ」
「…………………。すまない、正直に言って欲しい。それは……。君の、見間違えではなく……。実際に起きたもの、なのかい……?」
「はい。現実に起きたもの、です」

 全て至近距離で起きていて、誤解のしようがありません。私は即座に、首を強く大きく縦に振りました。

「『会長が言ってるコトもあたしが言ってたコトも、訳が分からない』、そう仰っていました。万が一私の目が節穴だったとしても、声での証拠がありますよ」
「………………………そう、なのか。…………はは、ははははは。よかった……。よかった……っ」

 こちらを凝視していたノルベルト様の肩から急激に力が抜け、そのまま床に仰向けになってしまいました。
 その言葉の意味もその反応の意味もまだ分かりませんが、一つだけ分かっていることがあります。殿下の顔には喜びが満ちていて、雰囲気が良い方向に大きく変わりました。

「だとしたら…………肉体的なショックを受けたら、解けるのか……っ。そっか……。大丈夫、なんだね……。君も、皆も……。大丈夫なんだ……っ」

 ノルベルト様は喜びを噛み締めるように何度もつぶやき、上体を起こすと深く深く頭を下げました。

「君が粘ってくれたおかげで、光が差し込んだよ。ありがとう……。本当に、ありがとう……っ」
「貴方が人のお話を全然聞いてくださらないせいで、随分と時間がかかってしまいました。そのお詫びに、ちゃんと事情を話してくださいね?」

 ぷくっと頬っぺたを膨らまし、怒ったふりをしてみました。
 今回はそれ以外では、許しません。正直に白状してくださいっ。

「…………分かったよ。それさえも、君の意思とは――ううん、なんでもない。少なくとも今は、それが一番安心してもらえる方法だから……。何もかも伝えるよ」
「よろしく、お願いします。なぜ貴方はあのような婚約破棄をして、浮気を偽装したのですか?」

 複雑な表情になっていたノルベルト様はかぶりを振り、一度深呼吸。久しぶりに私の瞳を真っすぐ見つめ、静かに口を動かしました。

「急に、最低の行為を繰り返した理由。それは僕に、異性を『魅了』してしまう力があると気付いたからなんだよ」

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