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第2話 記憶が戻って ミシュリーヌ視点(1)
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「ミシュリーヌ! ミシュリーヌっ! ミシュリーヌっ! 返事をしてくれっ! ミシュリーヌ!」
「…………………………う……。ここ、は……?」
「! ミシュリーヌっ、気が付いたか! 俺が誰か分かるかっ?」
「…………貴方は……。ぶ――じゃない……。アルチュール、ですね……」
仰向けになっているわたしを覗き込んでいる顔は、今の幼馴染のソレでした。
ここは、現世。わたしの名はジュリエット・ザルフェルではなく、ミシュリーヌ・ローメラズです。
「そうだっ、俺はアルチュールだ! ちゃんと、覚えてるみたいだな……!」
「……わたしは、頭を打って倒れた……。どのくらい意識を失っていたのですか?」
「1分、いや30秒くらいだな。これ以上待っても意識が戻らなかったら、おじさん達を呼びに行くしかないと考えていたんだ」
「……そう、でしたか」
「いやぁ、このまま目覚めないんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたぞ。いくら事故とはいえこんなの寝覚めが悪すぎるからな。よかったよかった」
「………………そうですね」
アルチュールは、元々こういう人。良いところと悪いところがハッキリしていて、すっかり慣れているわたしは追及せずにゆっくりと身体を起こしました。
「もう動いて平気なのか? 医者を呼ぶか?」
「……それはあとで行います。アルチュール、さっきの話の続きをしましょう」
今は、それよりも大事なことがあります。
婚約解消。
その話を再開させましょう。
「あ、ああ。た、頼む。頼むよミシュリーヌ。追加で礼をする――出来る限りの礼をするからさっ、話を合わせてくれ……!!」
「分かりました。貴方との婚約を解消できるように動きましょう」
「本当か!? 感謝する!! じゃあっ、さっき言った言葉をもう一度――」
「あの言い分は使いません。そちらはわたしが考えます」
『前世で夫婦だった人とまた一緒になりたいけど、今のままではなれそうにない……。そう悲しむアルチュールの姿が、お母様との別れを悲しむお父様の姿と重なったのです。そんな辛い思いは、もう誰にもして欲しくないんです』。
あんな台詞を、使えるはずがありません。
慰謝料の上乗せ、をできるみたいですしね。前世の記憶について隅々までお伝えして、『最愛の人を殺した人間と一緒に居たら何をしてしまうか分からない』と訴えれば認めてくださります。
「よ、よく分からないが、そういうことなら任せた。書類などはこちらで用意して、後日改めて俺と父上で――」
「いらっしゃるのは、おじ様だけで結構です。もし貴方が来るようでしたら、協力の件はそれこそ白紙にしますよ」
「それは困る! 分かった! 父上に頼むよ」
前世の記憶がないとはいえ、この人は最愛の人の仇。これ以上目にするのは苦痛です。
「……ということで、お話は全て終わりましたね。帰ってもらえますか?」
「え? あ、ああ。そ、そうだな。帰るとしよう。じゃ、じゃあな」
苦痛なので早々に目の前から消えてもらい、わたしはお父様がいらっしゃる執務室へと向か――おうとして止めて、侍女に氷嚢を用意してもらったあと、一旦自室に戻ります。
((前世と違う部分があるにはありますが、大半が前世通りに進んでいます。ということは、そうですね。アレについて対策を練っておきましょう))
「…………………………う……。ここ、は……?」
「! ミシュリーヌっ、気が付いたか! 俺が誰か分かるかっ?」
「…………貴方は……。ぶ――じゃない……。アルチュール、ですね……」
仰向けになっているわたしを覗き込んでいる顔は、今の幼馴染のソレでした。
ここは、現世。わたしの名はジュリエット・ザルフェルではなく、ミシュリーヌ・ローメラズです。
「そうだっ、俺はアルチュールだ! ちゃんと、覚えてるみたいだな……!」
「……わたしは、頭を打って倒れた……。どのくらい意識を失っていたのですか?」
「1分、いや30秒くらいだな。これ以上待っても意識が戻らなかったら、おじさん達を呼びに行くしかないと考えていたんだ」
「……そう、でしたか」
「いやぁ、このまま目覚めないんじゃないかと思ってヒヤヒヤしたぞ。いくら事故とはいえこんなの寝覚めが悪すぎるからな。よかったよかった」
「………………そうですね」
アルチュールは、元々こういう人。良いところと悪いところがハッキリしていて、すっかり慣れているわたしは追及せずにゆっくりと身体を起こしました。
「もう動いて平気なのか? 医者を呼ぶか?」
「……それはあとで行います。アルチュール、さっきの話の続きをしましょう」
今は、それよりも大事なことがあります。
婚約解消。
その話を再開させましょう。
「あ、ああ。た、頼む。頼むよミシュリーヌ。追加で礼をする――出来る限りの礼をするからさっ、話を合わせてくれ……!!」
「分かりました。貴方との婚約を解消できるように動きましょう」
「本当か!? 感謝する!! じゃあっ、さっき言った言葉をもう一度――」
「あの言い分は使いません。そちらはわたしが考えます」
『前世で夫婦だった人とまた一緒になりたいけど、今のままではなれそうにない……。そう悲しむアルチュールの姿が、お母様との別れを悲しむお父様の姿と重なったのです。そんな辛い思いは、もう誰にもして欲しくないんです』。
あんな台詞を、使えるはずがありません。
慰謝料の上乗せ、をできるみたいですしね。前世の記憶について隅々までお伝えして、『最愛の人を殺した人間と一緒に居たら何をしてしまうか分からない』と訴えれば認めてくださります。
「よ、よく分からないが、そういうことなら任せた。書類などはこちらで用意して、後日改めて俺と父上で――」
「いらっしゃるのは、おじ様だけで結構です。もし貴方が来るようでしたら、協力の件はそれこそ白紙にしますよ」
「それは困る! 分かった! 父上に頼むよ」
前世の記憶がないとはいえ、この人は最愛の人の仇。これ以上目にするのは苦痛です。
「……ということで、お話は全て終わりましたね。帰ってもらえますか?」
「え? あ、ああ。そ、そうだな。帰るとしよう。じゃ、じゃあな」
苦痛なので早々に目の前から消えてもらい、わたしはお父様がいらっしゃる執務室へと向か――おうとして止めて、侍女に氷嚢を用意してもらったあと、一旦自室に戻ります。
((前世と違う部分があるにはありますが、大半が前世通りに進んでいます。ということは、そうですね。アレについて対策を練っておきましょう))
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