運命の人と出逢ったから婚約を白紙にしたい? 構いませんがその人は、貴方が前世で憎んでいた人ですよ

柚木ゆず

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第4話 記念すべき席で アルチュール視点(2)

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「? アルチュール様、どうされたのですか?」
「? アルチュール……?」
「? アルチュールくん……?」
「…………………………え? あ、ああ。今、誰かの声が聞こえませんでしたか?」

 ヴィルジニーのグラスにワインを注ぎ始めて、すぐ。1秒くらい経ったタイミングだったと思う。
 女の声が、うっすらと聞こえた。

「声、ですか? わたくしには、聞こえていませんね」
「私にも、聞こえてはおらんな」
「同じく。アルチュールくん、あの声はなんて言っていたんだい?」
「声の大きさはとても小さくて、全体は聞き取れなかったんですが……。『わたくし』と言っていたのは分かりました」

 それも本当にうっすらとだったが、そこだけは理解できた。わたくし、と言っていた。

「わたくし、ですか……」
「話し声? のようだった気がする。誰かに向けて何かを話していて、その一部を聞き取れたのだと思う」
「うーむ。アルチュール。声質は分かるか?」
「…………ヴィルジニーに似ていました。ただ少し低く、少しだけ大人びていたように感じましたね」

 だから聞こえて来た瞬間は、ヴィルジニーがボソッと呟いたのかと思った。
 だがあの時彼女の口は、閉じられていたんだ。ヴィルジニーが呟いた可能性は0で、そもそも本人が否定しているのだから100パーセント違う。

「ヴィルジニーくんに、似ているのか……。屋敷内の声が聞こえたのかと思ったが、似たような声の者はおらんな……」
「ヴィルジニーとそっくりな声の人間が喋りながら敷地外を歩いていたなら、ありえる話だが……。敷地外の声がここまで聞こえるとは思えない……」
「ですわね、お父様。なんなのでしょうか……?」
「……………………ヴィルジニーも父上もクレマンお義父さんも聞こえていないなら、気のせいなのでしょう。ヴィルジニー、ワインを継ぎ直すよ」

 気にはなるが、気にしていてもしょうがない。だって解明しようがないのだから。
 そこで仕方なく再度ボトルを手に取り、ヴィルジニーのグラスに注ぎ始め――…………。また、すぐだった。


《わたくし、ブリュノ様と『18歳記念』をお祝いできると思っていませんでした》


 もう一度、しかしながら今度ははっきりと、謎の声が聞こえてきたのだった。

((ち、違う! 聞こえてきているんじゃない。頭の中に響いてきてるんだ!))

 しかも……。
 それは、一度きりではなくて――

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