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6 うごき(3)
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「丘奈さんの心だけではなく、身体も傷付けてただなんて……っ。貴方は最低よ……!」
「ははは。それは、褒め言葉として受け取っておきますよ」
悪人は、まともな心を持っていません。彼は嬉しそうに笑い、軽快に机から降りました。
「さて。説明はこの辺でいいでしょう」
「…………っ」
「今や夢卯さんは性悪としても有名になっていて、次に大きな『何か』があれば学園長は責任を取らないといけなくなる。貴女には、それの切っ掛けとなって頂きますよ」
智成は五円玉を付けた紐を取り出し、真希の顔の前で垂らしました。
氷川智成が得意とするのは、昔からよくあるタイプの催眠術。主に、コインの動きを利用して催眠をかける催眠術師でした。
「僕はね、こういうやり方でかけるんですよ。ありきたりで申し訳ありません」
「ふっ、それは全然構わないわよ。その方法だったら、目を閉じていればかかりはしないからね」
このやり方だと、催眠をかけるアイテムを見なければ、潜在意識に干渉されません。なので真希はお返しにニヤリと笑い――その笑みは、すぐに消えることになりました。
「……どうして、まだ笑ってるの……? アナタには、まだ何かあるの……?」
「絵墨さん。『睡眠学習』という物をご存知ですか?」
「……知ってるわよ……。それが、なに……?」
「あれの仕組みを上手く利用すれば、眠っている相手にも催眠術をかけられるんですよ。そこで僕は貴女に、『指を鳴らせば瞼を閉じられなくなる』という悪戯をしました」
智成は邪悪な笑みを浮かべ、嫌味たっぷりに指をパチン。その状態になるスイッチを入れたのです。
「はい、どうですか? 瞼を、下ろせますか?」
「…………くぅっ。うごか、ない……!」
「ふふ、そのようですね。では、始めましょうか」
五円玉を、ゆっくりと動かす。そうしたら――
「やっ、やめなさい! やめっ! 操り人形なんかになりたく…………。………………」
「このくらいでいいでしょう。さて絵墨さん、貴女のご主人様は誰ですか?」
「………………ひかわ、さま。氷川智成様です」
トロンとした目になっていた真希は、普段通りの瞳に戻った途端に即答。さっきまで憎んでいた相手に向け、頭を下げました。
「ええそうです、僕がご主人様です。ではこのカメラとボイスレコーダーを隠し持ち、トドメになるような映像か音声を入手してきてください」
「はい、畏まりました。氷川様のために、行って参ります」
拘束を解かれた真希は改めて丁寧に頭を下げ、ポケットにボイスレコーダーとカメラを入れる。そうして放課後になるタイミングに合わせて、待ち合わせ場所である屋上へと歩き出したのでした。
「ははは。それは、褒め言葉として受け取っておきますよ」
悪人は、まともな心を持っていません。彼は嬉しそうに笑い、軽快に机から降りました。
「さて。説明はこの辺でいいでしょう」
「…………っ」
「今や夢卯さんは性悪としても有名になっていて、次に大きな『何か』があれば学園長は責任を取らないといけなくなる。貴女には、それの切っ掛けとなって頂きますよ」
智成は五円玉を付けた紐を取り出し、真希の顔の前で垂らしました。
氷川智成が得意とするのは、昔からよくあるタイプの催眠術。主に、コインの動きを利用して催眠をかける催眠術師でした。
「僕はね、こういうやり方でかけるんですよ。ありきたりで申し訳ありません」
「ふっ、それは全然構わないわよ。その方法だったら、目を閉じていればかかりはしないからね」
このやり方だと、催眠をかけるアイテムを見なければ、潜在意識に干渉されません。なので真希はお返しにニヤリと笑い――その笑みは、すぐに消えることになりました。
「……どうして、まだ笑ってるの……? アナタには、まだ何かあるの……?」
「絵墨さん。『睡眠学習』という物をご存知ですか?」
「……知ってるわよ……。それが、なに……?」
「あれの仕組みを上手く利用すれば、眠っている相手にも催眠術をかけられるんですよ。そこで僕は貴女に、『指を鳴らせば瞼を閉じられなくなる』という悪戯をしました」
智成は邪悪な笑みを浮かべ、嫌味たっぷりに指をパチン。その状態になるスイッチを入れたのです。
「はい、どうですか? 瞼を、下ろせますか?」
「…………くぅっ。うごか、ない……!」
「ふふ、そのようですね。では、始めましょうか」
五円玉を、ゆっくりと動かす。そうしたら――
「やっ、やめなさい! やめっ! 操り人形なんかになりたく…………。………………」
「このくらいでいいでしょう。さて絵墨さん、貴女のご主人様は誰ですか?」
「………………ひかわ、さま。氷川智成様です」
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「はい、畏まりました。氷川様のために、行って参ります」
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