クローンだった私と、兄

柚木ゆず

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「夏樹(なつき)お兄ちゃんっ。次はどこに行こっか?」
「うーん。そろそろ、午後の1時になるね。お店巡りはちょっとお休みして、お昼ご飯にしようか」

 4月のとある日。一組の男女が、仲良く歩道を歩いていた。
 幼さが残る顔に笑顔を咲かせている少女は、妹の佐々木(ささき)春香。その隣を――道路側を歩いている穏やかかつ爽やかな少年は、四つ上の兄である佐々木夏樹。この日は春香の11歳の誕生日で、共働きの両親はあいにく深夜まで休日出勤なため、2人はお祝いを兼ねて買い物に出掛けていた。

「今日は春香が主役だから、春香が食べたいものを選んで。何がいいかな?」
「ハンバーグっ。こないだ行った、えっと……。ビストロ何とかってお店の、目玉焼きがのったハンバーグが食べたいっ」
「『ビストロ岸野(きしの)』の、目玉焼きハンバーグだね。ここからだと……。お店は、こっちの方向だね」

 二人は進路を右に変え、しばらく進むと一旦停止。赤信号のため、横断歩道の前で止まった。

「春香の誕生日だから、今回はコーンスープとパフェも食べちゃおっか。実はビストロ岸野は、デザートも有名なんだよ」
「有名(ゆーめい)なデザート、楽しみ……っ。信号、早く変わらないかなぁ」

 春香は赤信号を眺めながら、そわそわ、そわそわ。その場でぴょんぴょんしたり『早く変わってください……っ』と念じたりしてその時を待ち、ようやく信号が変わった。

「夏樹お兄ちゃん、青になったよっ。いこいこっ!」
「うん、行こっか。春香がハンバーグやデザートに出会えるまで、あともう少しだね」

 無邪気にはにかむ妹に柔らかい微笑みを返し、手を繋いで二人は横断してゆく。

『ねえねえ、みてみて。あそこに、仲良し兄妹がいるわよ』
『すっごく、楽しそうにしてるわね。今日は、何か特別な日なのかしら?』
『きっとそうだよ。かわいいなぁ』

 通行人たちも微笑ましげに春香と夏樹を見つめ、だが――。その直後。その場にいる全員から、笑顔が消えてしまうことになる。

「ぁれ……? 青信号なのに、車が来てる……?」

 運転手の睡眠不足による、居眠り運転。その影響で本来停車すべきトラックが、速度を落とすことなく迫ってきて――

「っっ! はるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 ――やがて、大きな音と悲鳴が響き渡ったのだった。

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